大自然が奏でるシンフォニーを捉える
SPORTS
500mm F5.6 DG DN OS
Impression
by ギヨーム・ビリー|Guillaume Bily

私は10年以上前から、海の写真、特に海鳥の撮影に数多くのSIGMAのレンズを使用してきました。その中で、海鳥たちがいかに儚い存在であるかに気付かされました。私の写真家としての使命は、写真を通じて、他の人々にもそれを伝えることです。海の巨大なエネルギーと対峙して生きる海鳥たちの姿を撮影することで、海と海鳥との関係性を描き出しつつ、同時に海鳥たちの儚さをも表現しようとしてきました。海洋学、鳥類学、魚類学など様々な分野の研究が、海鳥の急激な生息数減少が海洋環境全体の悪化と関連があることを明らかにしています。
私は、新しいSIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sportsをこの海鳥のシリーズに使ってみたいと考えました。海辺の厳しい撮影条件でこのレンズをテストしてみたいと思ったのです。まず最初に私が驚いたのは、その軽さとコンパクトさでした。海鳥の撮影にぴったりのレンズのように思えました。

*撮影データの記載なき写真はSIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports以外のレンズで撮影されています。

朝、ブルターニュ地方の西の端はまだ強風が吹き荒れ、波が断崖に打ち付けています。海を見渡せる小さな岬に辿り着くには、かなり険しい道のりを進む必要がありますが、レンズは軽く、運ぶのも苦になりませんでした。バッグの重さだけでは、まさか中に500mmのレンズが入っているとは決して想像もつかなかったでしょう。
まだ薄暗い朝の光の中でも、鳥たちが活動を始めているのが分かりました。鳥たちの飛行経路は、風向きと波の高さに左右されるので、この観察の時間はとても重要です。ここで得られた情報をもとに、私は自分の撮影ポイントを決定し、これから撮る構図を頭の中に思い描きます。被写体にアプローチするこの段階こそが、野生生物写真家にとって最も重要な時間のひとつだと私は考えています。被写体や撮影場所を選び、光を待つ──これには非常に長い時間がかかる場合もありますが、これらの段階を経ることで、インスピレーションが生まれるのです。




小さな岬に辿り着いた私の目に入ってきたのは、カワウでした。カワウは波しぶきがかからないギリギリの低さを飛び、しばしば波が砕ける場所のそばを通過します。1羽のカワウがちょうどいい軌道で飛んでくるのが見えました。私はカメラを手に取り、狙いを定め、被写体のカワウに素早くフォーカスを合わせました。飛行経路の予測が難しいカワウを追っていても、オートフォーカスが途切れることはありませんでした。今回の撮影におけるテーマは、海にも鳥にも同じような重要性を持たせることです。したがって、被写界深度を可能な限り深くして、背景で砕ける波しぶきのディテールもくっきりと捉える必要があります。そのため、このシリーズの写真のほとんどをF11前後まで絞って撮影しています。時にはF16まで絞り込んで撮影することもあります。このような撮影は、カメラのセンサー感度の大幅な向上によって可能になりました。
10年以上前から取り組んでいる海鳥の撮影では、2種類の瞬間的な動きを同時に捉える必要があります。すなわち、予測しづらい飛行経路を描く鳥の動きと、砕ける波の動きです。こうした撮影では、忍耐がカギを握ります。嵐の中で一日中、ちょうどいいタイミングでフレームの中に飛び込んでくる鳥を待ち続けて、結局1枚の写真も撮影できずに終わったという経験も何度もあります。がっかりしてしまいますが、写真家が限界を押し広げるためにはそうした経験も必要なのだと私は思います。


自然は、私たちに新たな発見や写真撮影のチャンスを数多くもたらしてくれます。何も撮影できなかったとしても、それを受け入れる必要があります。大荒れの天候や極端な条件下での撮影にSIGMAのレンズを使い始めて10年以上になるので、この新しいSIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sportsについても、予想外に大きな波が打ち付けてきたり、水しぶきがレンズにかかったり、あるいは雨が降ったり止んだりという天候でも、安心して使えるだろうということはわかっていました。
数時間にわたって、絶え間なく飛び続けるカワウやカモメ、フルマカモメ、カツオドリを撮影しました。鳥たちは荒れ狂う波でもたやすくくぐり抜けて飛び回ります。レンズの軽さとオートフォーカスの精度の高さのおかげで、手持ちでも被写体を簡単に追いかけることができました。三脚を使わずに済んだことで、私は自由に撮影場所を移動し、また被写体も変えることができました。場所を移動しながら撮影ポイントを探す際、険しい地形の場合には特に、機材が軽量であることは非常に有利になります。


時間がたち、潮目が変化しました。波の向きが変わったので、私は別の場所に移動することにしました。小さな玉石が広がる浜辺です。そこは、引き潮になるとチドリがやってきて波と戯れる場所なのです。私はチドリたちを驚かせないようにゆっくりと近づき、安全な距離を保って玉石の地面にうつ伏せになり、地面すれすれの位置から、すばしこい小さなチドリたちの動きを追いかけはじめました。潮が引くにつれて、チドリたちはどんどん海に近付いていきます。時折、水に近付きすぎて、突然の大きな波しぶきに慌て驚く様子が見られます。それこそが私の狙う瞬間なのです。ほんの数秒で終わってしまう、束の間の出来事です。チドリたちは玉石の上を非常に素早く歩き回り、大きな波の音に危険を感じると立ち止まり、そして波が岩にぶつかって砕ける前に飛び立ちます。チドリがどちらの方向に飛び立つのかを予測することはほぼ不可能です。そのため、こうした撮影は非常に難しいものになります。
オートフォーカスをトラッキングモードにすることで、動き回るチドリにフォーカスを合わせ続けることができ、突然飛び立ってもしっかりと捉えられました。この時に私が気付いたのは、この500mmレンズのオートフォーカスが非常に高性能であるだけでなく、音も非常に静かだということです。この静音性は、野生生物写真家にとっては大きなメリットになります。





冬のブルターニュ地方の夕暮れは、あっという間に暗くなります。そこで私はさらに別の、もっと大きな浜辺に移動することにしました。そこでは、ホシムクドリの大集結という壮大なスペクタクルが見られるのです。何万羽ものホシムクドリが、沼地の蘆の茂みで夜を過ごすためにここに集まってきます。
日が沈むとすぐに、いくつかの群れが周囲の木々に集まりはじめました。そして数分後にはすべてのホシムクドリがこの浜辺に集結し、沼地への大移動に備えます。私は海辺に陣取り、その特別な雰囲気を捉えようとしました。巨大な群れの中でも数羽の鳥のシルエットが特に際立つような瞬間を狙います。驚いたことに、光量が非常に少ない条件下であるにもかかわらず、オートフォーカスはホシムクドリのシルエットを完璧に捉えてくれました。この一大スペクタクルはほんの数分間で終わりを迎えます。やがて鳥たちは、暗闇の中、ねぐらのある沼地へと飛び立っていくのです。

私は数日間にわたってSIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sportsでの撮影を続けましたが、いくつかの嬉しい驚きがありました。まず、その軽さとコンパクトさ。これによって、撮影の自由度が大きく向上します。そして何よりも、500mmレンズをカメラに付けたまま、一日中、手持ちで撮影を続けることができるのです。画質の高さやオートフォーカスの静音性も、野生生物写真家にとっては大きなプラス要素になります。そして最後に、その堅牢さ、SIGMAの他の多くのレンズと同様の雨や水しぶきに対する耐久性も特筆すべきでしょう。
このレンズは、野生生物の撮影に安心感をもたらしてくれます。限界に挑む意欲をかき立て、インスピレーションを大きく広げる力をもたらしてくれるのです。



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ギヨーム・ビリー|Guillaume Bily
野生生物写真家
1986年生まれ。野生生物の撮影に情熱を傾ける写真家。18歳でBIOSエージェンシーに加わり、2008年のBBCワイルドライフ・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤーに選ばれるなど、早くから高い評価を受けている。展覧会も多数開催し、「Flight」シリーズは2013年のFestival de l'Oiseauで展示された。2012年にはノルウェーで単独撮影旅行を行い、夕景を捉えた「Towards the Dark」シリーズを制作。2015年の展覧会「Wild Lights」ではスカンジナビアの夕暮れと夜明けを捉えた作品を展示した。「Ocean」シリーズは2016年のBBCワイルドライフ・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。2019年にはGDT欧州ワイルドライフ・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤーでランドスケープ賞を受賞。
海への情熱を感じさせる作品群は、多くの有名ギャラリーや写真フェスティバルで展示されている。