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かけがえのない瞬間と感動を、
美しい描写と絶妙な距離感で残す

ART
50mm F1.4 DG DN
Special Impression

by 相武 えつ子

私が写真をはじめたのは結婚後まもなく、夫に勧められたのがきっかけでした。当初は四季折々の光景を気の向くままに撮っていました。子どもが生まれるまでは「こういうものを、こんな風に撮ろう」という目的意識はあまりなくて、その時々で自分が何に美しさを感じるのか、何を被写体にすべきかを考えていました。この時の経験が、いまの自分の関心のアンテナを鍛えてくれたように思います。結婚や出産のような、それまで生きてきた環境や習慣を大きく変えるライフイベントは、ものの見方や感じ方に影響を与えます。私の場合、結婚を機に仕事を辞め、それまで慣れ親しんだ場所を離れ、知人の少ない土地で新生活をスタートさせたのですが、自分が築いてきた「私の社会」から遠のいたような心許なさを味わいました。その気持ちを軽くしてくれたのが写真を通したSNSでのつながりだったのです。慣れない育児の悩みをつぶやけば、深夜に起きている人が仲間として助けてくれる。そんなSNSは私にとっての新しい「社会」であり、写真がそのつながりを作ってくれました。

子ども達を撮影する時に一番大事にしているのは、「家族としての時間」を楽しむことです。ひとりの撮影者としては、私にも意図や目論見はもちろんありますが、まずは「お母さん」として、その時間が家族にとって楽しいものであることを第一に考えたいと思っています。両者のバランスをとるのは難しいのですが、私は子ども達の写真を「撮らせてもらっている」と思っているので、負担をかけないようあらかじめ一人で撮影プランを練っておきます。子どもとの生活は、もちろん大変なことも多いですし、育児、家事、仕事をしながら写真撮影をするなんて...と思われるかもしれません。でも私にとっては撮影こそが、ひとりの人間として自分の時間や個性を大切にすることと、母親として目の前の家族を大事に思う気持ちの両方を、無理なく自分のなかに保っておけるかけがえのない方法になっているのです。「私」を保つための軸ともいえるものが、家族の写真をとることなのかもしれません。

私が撮りたいのは「その子らしい写真」です。楽しいなら楽しい、悲しいなら悲しい、悔しいなら悔しい表情を。その時その年齢でしか見られない表情を成長記録としても残したいのです。3歳で撮れる表情はその時だけのもの。11歳では撮れないからです。二人の娘はそれぞれ性格が違います。ですから写真のアプローチももちろん違います。子どもの写真を撮ることへのパッションは、子どもを育てることに対するパッションと相通じると思っています。「その子らしさ」を撮るためには、姉妹それぞれの良さを探して、それを魅力として描き、よい意味での違いを認めて尊重することが大切なのです。人間は忘れやすい生き物ですから、過ぎ去ってしまう一瞬を見えるかたちで残しておける写真はよいツールだと思います。育児日記などが苦手だった私が唯一続けられている「成長記録」が、写真なのです。

*撮影データの記載なき写真はSIGMA 50mm F1.4 DG DN | Art以外のレンズで撮影されています。

私は50mmという焦点距離が大好きです。理由は、子どもと話しながら撮影できるから。私の写真は、親子としての関係や、その場で生まれる感覚や視点によってかたちづくられる「私にしか撮れない写真」だと思っています。お話したりコミュニケーションができる距離で撮り、私だけが描けるその子の今を残したい。それが私が50mmを使う理由です。

SIGMA 50mm F1.4 DG DN | Artは、日々の暮らしの中にある光の輪郭をはっきりと捉えてくれ、ふとした瞬間の場面をよりドラマティックに感じさせてくれます。そして、撮影の段階で画角に迷う必要がなく、直感を信じて動いて撮るしかない、つまり撮りたい瞬間に正直にいられる点が最大の魅力だと思います。目指すのは動画だと見過ごしてしまうようなワンシーンです。一緒に動いたり遊んだりしながら撮ることもありますが、SIGMA 50mm F1.4 DG DN | ArtはAFが速いので、俊敏に動きながら、コミュニケーションをとりながらの撮影にもしっかり追従してくれます。

予期せぬことばかりの「ドキュメンタリーな日常」の中で、美しいと感じた光景のカケラを切り取る感覚を大切にしているのですが、50mmという焦点距離はもっともそうした撮影に向いていると感じています。単焦点が好きなのは、なんといってもその描写の美しさゆえ。寄りで撮るなら、何を撮りたいかを考え、表情であれば表情以外に目線がいかないような背景を。光であればその光が際立つようなアングルと背景とのコントラストを探ります。
背景を含めた引きの情景を撮りたいなら、その情景の何が美しいと思って撮りたいと思ったのかという気持ちが大切なのです。その点ではSIGMA 50mm F1.4 DG DN | Artは夕方や夜の薄暗いシーンでもチャンスを逃さず撮影でき、感動・感覚のまま撮影することができます。

私が撮影をするのは、自分と子どもに「余裕」がある時です。家族として一緒に過ごしていますから、日常生活のさまざまな場面で最も良い光が得られるタイミングを熟知していますし、家族のルーティンも把握できています。たとえば秋~春は部屋の隅々まで美しい斜光が差し込みます。面白い影もできるし日の出も遅いので、子ども達の寝起きの瞬間と朝の美しい光を寝室で同時に撮れるのです。夏などは夕食後に海辺へ夕涼みに出ます。海は子ども達の絶好の遊び場であり、私にとっては最高の撮影場所なのです。家族皆の心身に余裕のある、楽しくて、とても良い時間です。

わたしは季節を感じる情景を見ることや、日々の中にある美しさを感じることが元々好きです。子ども達の感受性を育てることも大事と考えていますし、子ども達と一緒に感じ、一緒に育くまれたいです。生活の中の、四季それぞれの、そこにある「美」を一緒に感じ、日々の生活を豊かにしたい、その感動を表現したり分かち合いたいという思いが、写真への情熱のベースになっていることを感じます。

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ABOUT

相武 えつ子

フォトグラファー

愛知県在住。結婚を機に写真を撮りはじめ、長女出産後から自身の子どもの写真を撮り続けている。2015年シグマフォトコンテスト優秀賞受賞。二児の母として子育てをしながら様々な講座で育児と写真について発信。
Instagramのフォロワーは7万人を超え、育児の世代だけでなく幅広い年齢層のファンに支持されている。