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45mm F2.8 DG DN | Contemporary Impression

カメラ SONY α7R II
シャッタースピード 1/1250s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 100
焦点距離 45mm
焦点距離
(35mm換算)
45mm
ホワイトバランス マニュアル
撮影者 原口 弘

© 原口 弘 Hiroshi Haraguchi

一般的に「標準レンズ」と呼ばれるレンズの焦点距離は50mmであり、日常の光景を収めるのにも適しているとされる。「人間の目と視野が近いから」というのが大方の理由だが、実際、街の様子をナチュラルに捉えるには少し長く感じることもある。では35mmはどうかと言うと、これまた「帯に短し襷に長し」なことがよくある。故に巡り巡って結局50mmを選び、多少の長さを頭に入れつつ撮影に臨むことも多い。コンパクトに設計された45mm F2.8の試写の依頼が来た時、レンズ性能とは別に、この5mm分の短さが効いてくるだろうと想像した。ほんの5mmのパース感の違いが、写真のアプローチと仕上がりに違いをもたらす。そして、5mm分だけ追加された街のディテールが写真に奥行きを与えてくれるし、少しばかりの窮屈さから解放されると気分も軽くなるのだ。向かったのは桜満開の京都。春の光景を気の向くままに拾い歩いてみた。

カメラ SONY α7R II
シャッタースピード 1/500s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 100
焦点距離 45mm
焦点距離
(35mm換算)
45mm
ホワイトバランス マニュアル
撮影者 原口 弘

© 原口 弘 Hiroshi Haraguchi

京都の表風景

まずは表通りをスナップしてみる。この一枚を撮っただけでも、45mmという焦点距離がもたらす柔軟性に改めて気付かされるし、5mmの差は想像以上である。中腰になって引かなくてもパース感を活用した構図が撮れる。気になる光景をその場で収められるので、撮影がテンポ良く進み、実に楽しい。桜の様々なトーンのピンクを見たままに描く色再現にも感じ入った。合焦部は開放から十分にシャープだが、このような少し逆光気味の状況では上品な柔らかさも漂う。

カメラ SONY α7R II
シャッタースピード 1/60s
絞り値 F11
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 100
焦点距離 45mm
焦点距離
(35mm換算)
45mm
ホワイトバランス マニュアル
撮影者 原口 弘

© 原口 弘 Hiroshi Haraguchi

カメラ SONY α7R II
シャッタースピード 1/2000s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 100
焦点距離 45mm
焦点距離
(35mm換算)
45mm
ホワイトバランス マニュアル
撮影者 原口 弘

© 原口 弘 Hiroshi Haraguchi

京都の街並みは真っ直ぐな道が直交することから碁盤の目に例えられる。そしてそこに建ち並ぶ伝統的な建物もまた繊細な直線で構成されている。京都の街の上質なイメージは、この直線が織りなす美がもたらしているとも言えるだろう。45mm F2.8 DG DN | Contemporaryは直線を直線のまま、素直に捉えてくれるので、水平垂直を意識した構図も躊躇なく選べる。そして、周辺まで歪みの無い画面は見ていて安心感がある。写真を生業としていると周辺まで均一な描写を当然のこととして求めてしまうが、それを開放から見せられるとレンズに対する信頼感が増す。

カメラ SONY α7R II
シャッタースピード 1/2000s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 100
焦点距離 45mm
焦点距離
(35mm換算)
45mm
ホワイトバランス マニュアル
撮影者 原口 弘

© 原口 弘 Hiroshi Haraguchi

カメラ SONY α7R II
シャッタースピード 1/1600s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 100
焦点距離 45mm
焦点距離
(35mm換算)
45mm
ホワイトバランス マニュアル
撮影者 原口 弘

© 原口 弘 Hiroshi Haraguchi

開放での撮影だが、下から見上げた塔の屋根瓦や骨組みが精密に、かつコントラスト豊かに描かれている。周辺光量の落ちはかなり少ない。

ここまでの撮影を通して、開放での柔らかな味を持ちつつ、高い基本性能も持ち合わせている印象を持った。使い込むほどに面白さが増すタイプのレンズである。

カメラ SONY α7R II
シャッタースピード 1/160s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 100
焦点距離 45mm
焦点距離
(35mm換算)
45mm
ホワイトバランス マニュアル
撮影者 原口 弘

© 原口 弘 Hiroshi Haraguchi

路地裏の光景

レンズの大まかな傾向がわかったところで、もう少しじっくりと撮影してみることにした。同じ京都市内でも観光地から一歩足を踏み入れた路地は、表の喧騒が嘘であるかのように静まり返っている。45mmで路地を狙うなら、縦位置で奥行きを表現すると面白い。バイクにピントを置いたが、背景までの距離感を伝えつつ騒がしさも感じられないボケ味が絶妙であり、質感豊かに描かれた被写体がいっそう立体感を伴って迫ってくる。まさに現場で感じた雰囲気そのままである。こういうレンズこそ、肌身離さず持っていたいものだ。

カメラ SONY α7R II
シャッタースピード 1/125s
絞り値 F4
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 100
焦点距離 45mm
焦点距離
(35mm換算)
45mm
ホワイトバランス マニュアル
撮影者 原口 弘

© 原口 弘 Hiroshi Haraguchi

和と洋、有機と無機、自然と人工。対極の存在に思えるものどうしを調和させた小さな世界にも、京都らしさを感じた。一段絞るだけで画面全体がさらに鮮鋭度を増す。石の硬さや凹凸が克明に表現され、その冷たささえ感じられるようだ。深みのある色再現により、枯れゆく椿の花にさえも生命力を感じる。

カメラ SONY α7R II
シャッタースピード 1/30s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 400
焦点距離 45mm
焦点距離
(35mm換算)
45mm
ホワイトバランス マニュアル
撮影者 原口 弘

© 原口 弘 Hiroshi Haraguchi

小路にある純喫茶店にて。さり気なく置かれた上品なアンティークの調度品に、ついレンズを向けてしまう。その場から動くことなく現場の雰囲気をフレーミングできる45mmの懐の深さが、ありがたい。またF2.8の明るさなら、低照度下でも最小限の感度アップで済ませられる。色再現も濃厚で、現場の重厚な雰囲気が感じられる。

カメラ SONY α7R II
シャッタースピード 1/500s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 100
焦点距離 45mm
焦点距離
(35mm換算)
45mm
ホワイトバランス マニュアル
撮影者 原口 弘

© 原口 弘 Hiroshi Haraguchi

後ボケと口径食にも気を遣って開発したと聞いたが、確かにこの背景のボケは油絵具のように表情が豊かで美しく、画に厚みを与えている。ピントピークは開放からシャープだがやはり柔からさも同居する。口径食もうまく抑制され十分な丸みがあるので、開放から積極的に撮影を楽しめる。表現力の豊かなレンズだ。

カメラ SONY α7R II
シャッタースピード 1/200s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 100
焦点距離 45mm
焦点距離
(35mm換算)
45mm
ホワイトバランス マニュアル
撮影者 原口 弘

© 原口 弘 Hiroshi Haraguchi

カメラ SONY α7R II
シャッタースピード 1/50s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 100
焦点距離 45mm
焦点距離
(35mm換算)
45mm
ホワイトバランス マニュアル
撮影者 原口 弘

© 原口 弘 Hiroshi Haraguchi

カメラ SONY α7R II
シャッタースピード 1/60s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 100
焦点距離 45mm
焦点距離
(35mm換算)
45mm
ホワイトバランス マニュアル
撮影者 原口 弘

© 原口 弘 Hiroshi Haraguchi

職人も認める、クラフツマンシップ。

隣町の宇治市にある額縁工房を訪ねた。ここでもディフューズされた逆光を浴びる額の美しさが、巧みに表現されている。軸上色収差も良好に補正されており、階調やコントラストも申し分ない。

カメラ SONY α7R II
シャッタースピード 1/40s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 400
焦点距離 45mm
焦点距離
(35mm換算)
45mm
ホワイトバランス マニュアル
撮影者 原口 弘

© 原口 弘 Hiroshi Haraguchi

若い職人さんが作業をされていたので、お話を伺いながら近寄って撮らせてもらう。

「シュッとしてるし、カッチリ作ってありますね」

突然こう言われて驚いた。本レンズの作りは非常に凝っている。鏡胴はもちろんフードまでもが金属製で、その作りの良さは持った瞬間にわかる。フォーカスリングとフードのローレット加工は深く彫り込んであるが、これは滑り止めはもちろんのこと、デザインとしても洗練された印象を与えている。この作り込みが写真に携わる者の心をくすぐることは確信していたのだが、写真をやらない方にも伝わったのには驚いた。

カメラ SONY α7R II
シャッタースピード 1/250s
絞り値 F2.8
露出モード M-マニュアル
ISO感度 400
焦点距離 45mm
焦点距離
(35mm換算)
45mm
ホワイトバランス マニュアル
撮影者 原口 弘

© 原口 弘 Hiroshi Haraguchi

とはいえ、自分が信頼をおく道具を手足の延長のように扱う職人が、本レンズのクラフツマンシップに反応するのも道理である。デザインも作り込みも瞬時にお見通し。玄人が共感するものはジャンルを超えるようだ。

カメラ SONY α7R II
シャッタースピード 1/125s
絞り値 F4.5
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 400
焦点距離 45mm
焦点距離
(35mm換算)
45mm
ホワイトバランス マニュアル
撮影者 原口 弘

© 原口 弘 Hiroshi Haraguchi

カメラ SONY α7R II
シャッタースピード 1/30s
絞り値 F2.8
露出モード A-絞り優先オート
ISO感度 400
焦点距離 45mm
焦点距離
(35mm換算)
45mm
ホワイトバランス マニュアル
撮影者 原口 弘

© 原口 弘 Hiroshi Haraguchi

ベテラン職人のHさんは趣味で写真も撮られるとのことで、話が発展してご自宅にまでお邪魔してしまった。レンズを手渡すと、「このリングの感触もええよね」と子供のように夢中で触っている。フードを指で弾いてキンキンと音を立てながら微笑んでいる。ルックスや感触だけで、ここまで撮る者を魅了するレンズも今どき珍しい。ちなみにこちらの洒落たキッチン周り、ご本人が図面を描いてこしらえてもらったのだそうだ。

あくまで推測だが、特に本レンズに関してはシグマは良い意味での遊び心を持って開発したのではないだろうか。触れることが嬉しくなる上質な質感。確かでありながらも心地よい操作感。コンパクトで洗練されたデザイン。積極的に絞りを開けて楽しめる表現力。そして45mmという絶妙な焦点距離とF2.8の十分な明るさ。常用レンズとして全ての資格を満たす、魅力的な一本である。「絵も写真も、額に入れて初めて完成するんです」とHさん。このレンズで例えれば、名画(エレメント)が最高の額(質感、デザイン)に入れられて完成した、ということか。