第二話|70-200mm F2.8 DG OS HSM | Sports を語る
皆様、こんにちは。SIGMAの大曽根です。30年以上にわたってSIGMAの製品開発に関わってきた立場から、製品開発の歴史やその魅力、時代や市場の背景、今だから言える失敗談(笑)などをお伝えする連載企画「大曽根、語る。」。第二話は、Photokina 2018で発表した70-200mm F2.8 DG OS HSM | Sportsのバックストーリーをお話します。
F2.8大口径望遠ズームの誕生
今年9月に開催されたPhotokina 2018でSIGMAは70-200mm F2.8 DG OS HSM | Sportsを発表した。Nikonが初めてプロ用の大口径望遠ズーム「Ai Zoom Nikkor ED 80-200mm F2.8S」を発表したのが1978年のPhotokinaであったので、今年はちょうど200mmクラスのF2.8ズームにとって生誕40年の節目の年となる。
1970年代、200mmクラスのF2.8ズームは報道、スポーツ写真家から最も望まれていたレンズの一つであり、適度な画角とズーム操作によって画面をサッと切り取れる「望遠レンズの醍醐味」が味わえるレンズだった。中でもNikonの「Ai Zoom Nikkor ED 80-200mm F2.8S」は、まさにユーザーのニーズに応えた製品といえた。しかし、当時の感覚ではあまりに大きく重く、しかも42万円という高価なレンズであったため、交換レンズ市場に影響を与えることはなく、あくまでプロの業務用機器的な存在となっていた。
だが、その200mmクラスのF2.8ズームは、多くの写真愛好家の願いでもあった。そしてその声に本当の意味で応えたのが、1983年にTokinaが発売した「AT-X 80-200mm F2.8」である。重さ約1kg、12万円の価格と特殊低分散ガラスを使用した高い光学性能で、業界に与えたインパクトは大きかった。それはプレミアムズームのF値が「2.8」に決まった瞬間であり、多くの中望遠単焦点レンズ、特に135~200mmクラスの単焦点レンズが大きくシェアを失うことが決まった瞬間でもあった。まさにTokinaショックである。
この後、多くのカメラメーカー、レンズメーカーがTokinaの「AT-X 80-200mm F2.8」に追随する製品を発表、発売していった。特に1985年にMINOLTAのα7000から始まったオートフォーカス一眼レフの時代には、200mmクラスのF2.8ズームはメーカーを代表する花形レンズとなり、光学性能やAF性能を競い合うようになっていった。
SIGMAが直面した大口径望遠ズームの課題
当時、残念ながらSIGMAではF2.8のズームを作ることは容易ではなかった。理由は2つある。
- 当時YXと呼ばれていたSIGMAの交換式マウントシステム(サービスセンターで交換する方式を採用していたもの)の構造が複雑で大きかったため、マウント付近に十分なレンズスペースを与えることができなかった。
- SIGMAはいったんレンズ鏡筒を完成させて後から中にガラスレンズを挿入していく、という生産システムを採用していた。この構成だと、マウントの内径より大きな径の絞りを採用することが難しかった。
この2点が大口径望遠ズームを作る際の枷となっていたのだった。
SIGMAが初めてF2.8通しの望遠ズームレンズを発売することができたのは1992年、APO 70-210mm F2.8からである。前述の複雑なマウント構造と生産工程の改良に、多くの時間を費やしてしまったのだった。
HSMを採用した「EXシリーズ」の開発
SIGMAが本格的にこの200mmクラスのF2.8ズームの市場に参入したのは、1998年に発売したAPO 70-200mm F2.8 EX HSMからである。このレンズは、SIGMAがプロ/ハイアマチュア層を狙った新しいブランド「EXシリーズ」の第1弾として開発された。特に1997年に開発、量産に成功したHSM(リング型超音波モーター)を採用できたことが、このレンズ最大のトピックである。このHSMによって、フォーカス用レンズがどうしても重くなりがちな望遠系レンズのAF速度を格段に速く、しかも静かに行うことができるようになった。また、4枚の特殊低分散ガラス、インナーフォーカス、1.4x、2.0xテレコンバーター対応という高い機能と性能を手に入れ、カメラメーカーのフラッグシップレンズと互角に戦えるまでに進化していたのである。とりわけ、当時まだ超音波モーターを搭載していなかったNikonに対して大きなアドバンテージがあったと思う。
そして、その後もAPO 70-200mm F2.8 EX HSMは、マイナーチェンジとモデルチェンジを重ねつつ、SIGMAの主力商品として常に高い評判と販売数を維持してきた。
F2.8ズーム生誕40年の節目に生まれた最新作
Photokina 2018で発表した70-200mm F2.8 DG OS HSM | Sportsの特徴は、「極めて高い光学性能」と「Sportsラインらしい機能を多数盛り込んだプロフェッショナル仕様」である。
光学性能については10枚もの特殊低分散ガラス(FLDが9枚、SLDが1枚)を用いて磨きをかけているのだが、このクラスの望遠ズームの性能競争はもはやオリンピック競技並み、0.01秒を争っているような状況である。特殊低分散ガラスを10枚使っても他社との性能差は僅かだ。そこでSIGMAは、Sportsラインらしい強靭な筐体と高い機能にこだわった。
- アルミ、マグネシウムを中心とした堅牢な金属鏡筒
- 90度ごとにクリックのある高品位な三脚リング
- 六角穴付きボルト4本でSIGMAの500mmF4や60-600mm用、TS-81といった大型の三脚座に交換が可能
- アルカスイス対応の溝
- 三脚座を外した部分に一脚用のネジ穴を用意した
- 11枚羽根の円形絞り
- 高い防塵防滴性能
- 撥水防汚コート
- 加速度センサーを搭載したインテリジェントOS
- ロックボタン付きの花形フード
- フォーカスホールドボタン
※フォーカスONボタンとしても使用可能 - レンズ先端に耐衝撃用ラバーを採用
- フォーカスリミッター
- ファンクションスイッチ
- 1.4倍、2.0倍テレコンバーター対応
つまりSIGMAの70-200mm F2.8 DG OS HSM | Sportsは、Sportsラインならではの機能、性能とマグネシウムで軽量化された筐体とで、大手3社と真っ向勝負するレンズである。
そして、このレンズは仕上がりも素晴らしい。レザートーンと呼ばれるテクスチャーの強い塗料で仕上げられた筐体は超望遠レンズにも通じる精悍なものであるし、各所に配置されたボタンやスイッチ類はプロユースに最大限配慮されたものである。そして他社より明らかに強靭な三脚座は、一脚・三脚を使用した撮影の強い味方となる。
200mmクラスのF2.8ズーム生誕40年の節目に生まれたこの70-200mm F2.8 DG OS HSM | Sportsは、間違いなくプロ/ハイアマチュアから信頼される一本となるだろう。
Yasuhiro Ohsone
1987年入社。光学、メカともに開発の現場を歴任し、他社との協業も数多く担当。2013年より現職。