オールマイティ、だからこそ腕が鳴る
SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary Impression
インプレッション
小澤太一
SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary, Canon EOS R5, ISO 2000, F2.8, 1/250s, 34mm
2023年の春、ぼくは新たに北海道の最果てに、撮影のための拠点を持つことにした。今住んでいる東京と自然豊かな北海道を、毎月行き来しながらの二拠点生活。東京とは真逆のような最果ての生活スタイルを体験しながら、どんな被写体と出会うのかを楽しみに、毎日撮影に出掛けている。
SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary, Canon EOS R5, ISO 200, F7.1, 1/320s, 30mm
SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary, Canon EOS R5, ISO 100, F9, 1/320s, 18mm
SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary, Canon EOS R5, ISO 100, F9, 1/160s, 50mm
SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary, Canon EOS R5, ISO 100, F8, 1/500s, 28mm
今回、SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | ContemporaryのキヤノンRFマウント用を持って、北海道の遅い春にレンズを向けてみた。このレンズの焦点距離は35mm換算で28.8-80mmの標準ズーム。極端に遠い被写体を引き寄せることも、遠近感を生かして被写体をデフォルメすることも得意ではない標準ズームだが、目で見ている世界とあまり差異のない自然な画角の写真を撮るのには最適なレンズである。つまり、一番リアリティがある写真を撮れるわけだ。焦点距離が持つ個性的な力を借りることなく、自分が何を見たかを作品にまとめることができるのが標準ズームの面白さだと思うし、それゆえに腕が試されるレンズと言ってもいいのかもしれない。
*撮影データの記載なき写真はSIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary 以外のレンズで撮影されています。
SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary, Canon EOS R5, ISO 100, F4, 1/400s, 29mm
SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary, Canon EOS R5, ISO 800, F9, 1/40s, 38mm
このレンズの絞りはF2.8通し。絞りが明るいことのメリットは4つだ。まずは『ボケ表現にこだわれる』ということ。標準ズームということから考えると、極端に大きなボケは出しにくいが、適度な奥行き感を出すには十分な開放F値だ。最果ての景色の中で見つけた被写体を、程よく背景から浮かび上がらせてくれる。
SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary, Canon EOS R5, ISO 400, F2.8, 1/640s, 50mm
次に『速いシャッター速度で撮れる』ということ。偶然出会った動物にレンズを向けても、絞りが暗いと被写体ブレが起こりやすくなる。手ブレはしっかり構えることにより自分自身で防げたとしても、被写体ブレは相手の問題なのでこれはどうしようもない。相手が動物だと、その一瞬はもう二度と撮れないことがほとんどだ。そんなときに開放がF2.8と余裕があると、速いシャッター速度で被写体ブレも防げて安心だ。またシャッター速度を速くする必要がない場合は、感度を低くもできる。つまり『高画質に仕上げられる』ということだ。これが3つめ。作品作りにおいて「写すだけではなく、より高画質に!」という意識はいつも持っていたい。そのためには撮影者ができることと、機材に委ねなければならないことの2つの面からしっかり考えなければならないと思っている。
SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary, Canon EOS R5, ISO 250, F8, 1/320s, 25mm
SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary, Canon EOS R5, ISO 500, F4.5, 1/200s, 50mm
そして最後の4つめは『三脚が無くても作品を撮影できる』ということ。四六時中、三脚を持っていられる環境ではないので、明るいF値によって手持ち撮影ができるのは頼もしいことだ。今回はカヌーに乗りながら撮影したりもしたが、こういう場合にはそもそも三脚は使用できない。使わないときは荷物になる三脚から解放されることで身軽になり、森のさらに奥へ……それが思わぬ出会いにつながることはきっと多くあるはずだ。この4つの点から、開放F値が明るいことは撮影の領域を広げてくれるに違いない。
SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary, Canon EOS R5, ISO 200, F7.1, 1/400s, 50mm
SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary, Canon EOS R5, ISO 200, F6.3, 1/320s, 50mm
さて、絞りF2.8のレンズでボケを語るときに見逃せないのが最短撮影距離だ。ピントを合わせる距離が近ければ近いほど、背景のボケは大きくなる。開放F値と最短撮影距離は、ボケを出す上では両輪のように関係しあって総合的なボケの大きさを変化させる。そしてレンズの最短撮影距離次第で、ボケ表現が得意なレンズかそうでないのかが変わってきたりもする。その点で言えば、このSIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporaryはワイド端で最短撮影距離が12.1cmととても短い。ワーキングディスタンスは2.7cmと、フードの先端よりも近距離のものにもピントを合わせることができてしまう。F2.8という明るい絞り値と最短撮影距離12.1cmの組み合わせは、完全にボケ表現が得意なレンズと言ってもいいだろう。実際に森の散策では、これまであまり目がいかなかった足元の小さな自然にレンズを向けることが何度もあり、フードをはずして最短撮影距離で撮影してみたりした。小さな被写体が持つ造形がファインダー内に突如現れて、被写体を発見する面白さを知った。また、最短撮影距離での撮影だと背景のボケ量も相当大きくなるので、ほんのわずかなフレーミングの違いでまったく雰囲気の違う作品に仕上げることもできた。幅広いバリエーションの作品をたくさん撮ることになり、気がつくととても長い時間、シャッターを切っていた。つまりそれだけ楽しめるレンズであると言えるわけだ。
SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary, Canon EOS R5, ISO 200, F2.8, 1/800s, 18mm
サイズについても見逃せない。これがF2.8通しとは思えないほどの小ささ・軽さで驚いた。ぼくの小さな手でもすっぽり包み込むことができるほどだ。ウインドブレーカーのポケットにもすっぽりと収まる。フィルター径もφ55mmと、現代のレンズとしてはとても小さくまとめられている。カメラにつけた時の重量も格段に軽いし、首から下げていてもストレスがなかった。今回、雪が残る峠の山を歩いたりもしたが、どうしても厳しい条件になればなるほど持っていける荷物は限られてしまう。そんなとき、ボディにつけたときは小さく軽く、カバンに入れたときにはスペースをとらないことはありがたい。そして小さいけれどボディにつけたときのバランスはとてもよかった。そこは大事なところである。
SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary, Canon EOS R5, ISO 125, F6.3, 1/30s, 21mm
北海道での撮影では夜明け前に家を出て、森や沼、海など、その日決めた撮影地をゆっくりと時間をかけて歩く。動物や自然などの特定の被写体を狙うわけではなく、最果ての大地に暮らす生命力を感じたり、季節ごとに自然が作る美しさを発見したり、太陽が演出する光の一期一会に感動したり……。このような撮影スタイルで被写体と向き合う時に大事にしていることがある。それは被写体を探す目を狭くすることだ。限られた枠の中で被写体を探すと、被写体を探すエリアは限定されてしまうが、そこへ向ける視線やアイデアの感度が強くなり、細かい差異に気がつくようになる。そういう面においては標準ズームというのは、ある程度はオールマイティでありつつも決してこれ一本で済ませられるほどは万能でもない、いいバランスのレンズと言えるのではないだろうか。当然ながら標準ズーム一本ですべてを撮影できるほど自然は単調ではない。だからこそ交換レンズの種類には広角、望遠、マクロ、単焦点…とたくさんあるし、ぼくも実際にはリュックの中には何本か持ちながら最果ての景色に向かっていたりもする。それでも常に「じっくり、欲張らず、こだわれ!」ということを肝に銘じながら撮影している。そう思えるようになったのは、二拠点生活をしているから……なのかもしれない。
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小澤太一
写真家
1975年愛知県名古屋市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、河野英喜氏のアシスタントを経て独立。雑誌や広告を中心に、子どもからアーティストや女優、某国大統領まで、幅広い人物撮影をメインに活動している。写真雑誌での執筆や撮影会の講師・講演など、活動の範囲は多岐に渡る。ライフワークは「世界中の子どもたちの撮影」で、年に数回は海外まで撮影旅行に出かけ、写真展も多数開催している。身長156㎝ 体重39kgの小さな写真家である。キヤノンEOS学園東京校講師、公益社団法人 日本写真家協会 会員。