技術的かつ科学的。
そして高い芸術性。
星景写真にとって夢のような
コンビネーション。
ジャック・フスコ
Jack Fusco
SIGMA 14mm F1.4 DG DN | Art, SIGMA fp L, ISO 3200, F1.4, 30s, ソフトフィルター使用
昔、初めて真っ暗な夜空の下に立ったとき、壮大な感覚が胸に押し寄せてきたのを覚えています。水平線を眺め、そしてまっすぐに天を仰ぐと、圧倒される程無数の星を感じました。
その瞬間から、私はその感覚を写真に収めたいと思うようになりました。自分の撮影した写真を通して最初にあの果てしない星の海の下に立った時の気持ちを思い出したいのです。これまでさまざまな焦点距離のレンズを使ってきましたが、この感覚を再現するのに最適なのは超広角のレンズです。初めて夜空を撮影したときも、できるだけ広く星空を写したいと思っていました。
私が初めて大西洋を見下ろした写真を撮ったときから、多くのことが変わりました。写真でストーリーを語るためにはどのようにそのロケーションに臨むべきかを意識するようになりましたし、機材を選ぶプロセスもより慎重になっています。今回のロケーション選びに関しては、10年以上前に初めて撮った夜空の写真に敬意を表したいという思いがありました。そこで、一番近い新月に合わせて天気予報を調べた結果、今回は思い出の撮影地よりずっと南へ赴くことに。フロリダキーズの真ん中に位置した、東と南東の水平線を一望できる島々が私を出迎えてくれました。天の川が昇り、移動していく様子を撮影するには最適な場所です。
SIGMA 14mm F1.4 DG DN | Art, SIGMA fp L, ISO 3200, F1.4, 13s, ソフトフィルター使用
SIGMA 14mm F1.4 DG DN|Artで撮影することに関しては、緊張と楽しみな気持ちの両方がありました。私は自分のアイデアが、適切な機材と空の条件とが揃う完璧な瞬間を待っているように感じることがよくあります。また、最も共感を生む作品は、私自身がその環境をしっかりと体で感じられたときに生まれるということも実感しています。星景写真の撮影は、技術的かつ科学的な知識だけでなく、芸術的な素養も必要です。撮影機材のスペックに感心したり、写真に描かれた光景を科学として学ぶことはできますが、ほとんどの場合、私たちを強く惹きつけるのは芸術的な性質です。
そのような考えから、撮影に出る前には必ず機材にしっかりと慣れ親しむのを大切にしています。その点、SIGMA 14mm F1.4 DG DN|Artは、技術的な観点から見ても際立った特長を数多く備えていたので、私はすぐに現場で使うことができました。
- 世界初、開放F1.4の14mmレンズ※ - 超広角の焦点距離と大口径F1.4の両立は、星景写真にとって夢のようなコンビネーションです。
※魚眼レンズを除く、ミラーレスカメラ用・一眼レフカメラ用交換レンズとして(2023年6月SIGMA調べ)
- MFL(マニュアルフォーカスロック)スイッチ - すべてのレンズに備わっていてほしい機能です。マニュアルでフォーカスを合わせたあと、このスイッチを押せばフォーカスが固定されます。これは、夕方早くから無限遠にピントを合わせ、そのまま一晩中ピントを合わせ続けるというような状況でも安心感を得られる非常に便利な機能です。
※ 撮影データの記載なき写真はSIGMA 14mm F1.4 DG DN | Art以外のレンズで撮影されています。
- レンズヒーターリテーナー - 撮影を妨げることなく、レンズヒーターをしっかりと固定することができます。このリテーナーのおかげで、厳しい条件下での心配がひとつ減りました。
- リアフィルターホルダーとフィルタースロット - ソフトフィルターは星々の輝きをにじませ強調させる役割があり、星景撮影には欠かせないアクセサリーのひとつです。なかでもリアフィルターはフロントフィルターに比べ、星像の歪みを防いでくれるという強みがあります。14mm F1.4 DG DN | Artにはリアフィルターホルダーが装備されているのに加え、レンズキャップにもフィルタースロットが備わっているので、シートタイプのフィルターをストレスなく装着・収納することができます。
撮影に集中するためには、これらの技術的な要素に慣れておくことが重要です。今回、月のない晴れた夜に恵まれそうなのはふた晩だけだったので、このレンズのLマウント用をSIGMA fp Lと組み合わせ、できるだけ身軽にすることにしました。約6100万画素のセンサーは、このレンズの性能と品質を試すのに最適です。
新しいレンズを試すときはいつも、最初に画面の隅々の品質を確認するためにサンプルを撮影します。星景写真において、機材には多くのことが要求されます。暗闇の中にどれほどのディテールを写し出せるかということと、光学性能の完成度です。絞りをF1.4に開き、ライブビューで確認しながらフォーカスリングをゆっくりと回し、にじんだ星の形を小さな光の点へと変化させていきました。ピントが合ったところで、レンズの側面にあるMFL(マニュアルフォーカスロック)スイッチを操作しました。この機能のありがたみは、あなたが一晩中タイムラプス撮影をしたあと、はたとピントをきちんと合わせていたのか思い出せなくなった時に初めてわかることでしょう。家を出るときに、ストーブやアイロンの電源を消し忘れていないか気になるのと同じことです。
SIGMA 14mm F1.4 DG DN | Art, SIGMA fp L, ISO 3200, F1.4, 91s, ソフトフィルター使用
ピントと絞りを確認し、13秒間の露光。結果を心待ちにします。中央は期待した通りのシャープさ。しかし、周辺の性能は私の想像をはるかに超えていました。画面全体が明るく、これ以上ないほどシャープだったのです。
これはまさに私がSIGMA Artラインに望んできた品質ですが、それを世界初の14mm F1.4というレンズで実現したという事実は、その品質の高さ以上に印象的でした。この実力があれば、私は現場でなんの心配もなく撮影だけに集中できます。
テスト撮影が上々に終わったので、本格的に撮影にとりかかる前に星空を見上げ、束の間その景色と一体になります。そうすることで、本当の意味で私はこの場所にたどり着いたといえるのです。何度か呼吸を整えてから、この夜最初の構図を決め、駆使すべきさまざまなテクニックを検討し始めます。
まず、空と前景を入れ単体露光で何度か撮影しました。F1.8やF2.8での撮影とは異なり、F1.4の明るさは前景と空のディテール両方を表現するのに十分な光を集めてくれます。天の川がゆっくりと水平線から登ってくるのに合わせ、私の興奮度は高まっていきました。
SIGMA 14mm F1.4 DG DN | Art, SIGMA fp L, ISO 3200, F1.4, 13s, ソフトフィルター使用
星の輝きに加えて、色とりどりの大気光(たいきこう)も見ることができました。大気圏上層部で発生するこの大気が発する弱い輝きは、光害のない場所で観測することができますが、これほど多く見られるのは珍しいことです。ボートル2から3クラス※の星空を目指してはるばる来たかいがありました。
※ボートル・スケール...夜天光の明るさを測るスケール。クラスは9段階あり、数字が小さいほど空が暗く天体観測に適しているとされる。
SIGMA 14mm F1.4 DG DN | Art, SIGMA fp L, ISO 3200, F1.4, 150s, ソフトフィルター使用
単体露光での撮影を終え、他の撮り方をいくつか試してみます。個人的な好みとして、自分がその場に立ったときの感覚を写真にもそのまま反映させたいので、星空だけでなく地上の風景も画面に含めて撮影する方法を常に考えています。そのひとつが、複数の露光を行い、後処理の段階で画像を重ねノイズを低減する方法です。このやり方に明るいF値のレンズを組み合わせることで、空や前景の暗い部分のディテールをさらに引き出すことができます。今回のように環境光の少ない場所での撮影は常に難しいものです。前景にシルエット以上のものを映し出したければ、星明かりや大気光などほんのわずかな光に照らされた景色をレンズに捉えてもらうほかありません。
SIGMA 14mm F1.4 DG DN | Art, SIGMA fp L, ISO 3200, F1.4, 105s, ソフトフィルター使用
天の川が水平線上に十分高く昇ったところで、三脚にポータブル赤道儀を取り付けました。この装置を簡単に説明すると、地球の自転に合わせて回転し星の日周運動を補正することで、星空の長時間露光を可能にするものです。通常10~30秒程度が限界のところ、この装置を使うことで数分程度露光することができます。SIGMA 14mm F1.4 DG DN|Artのようなレンズでの長時間露光は、夜空に息をのむほど美しいディテールをもたらしてくれます。fp Lと14mmをポータブル赤道儀に装着して行った最初の約45秒の露光で、私は圧倒されることになりました。天の川銀河の中心部のディテールや、画面全体に広がる色とりどりの大気光の帯など、画像のさまざまな領域を拡大するのを止められませんでした。
SIGMA 14mm F1.4 DG DN | Art, SIGMA fp L, ISO 3200, F1.4, 13s, ソフトフィルター使用
ポータブル赤道儀は慎重にバランスを取りながら設置する必要があるので、付属の三脚座は非常に便利でした。レンズとカメラを重心に近い位置で取り付けられるので、一旦装着すればしっかりと固定することができます。
SIGMA 14mm F1.4 DG DN | Art, SIGMA fp L, ISO 3200, F1.4, 30s, ソフトフィルター使用
ポータブル赤道儀でさらに数枚撮影した後、私は機材をまとめて次のロケーションに出発しました。到着すると少し雲がかかっていましたが、時間を無駄にはしません。ここに来る前に、いい写真が撮れそうなポイントをマップに記録していたので、1枚ずつ撮影しながら時間の許す限り多くの場所を回ることにしました。
SIGMA 14mm F1.4 DG DN | Art, SIGMA fp L, ISO 3200, F1.4, 60s, ソフトフィルター使用
夜も半ばを過ぎた頃、私はあることに気がつきました。初めて使う新しいレンズで撮影していることを、ほとんど忘れていたのです。最初のテスト撮影では、レンズの性能を見極め、その性能を最大限引き出すにはどうすればいいかということに集中していました。しかし、撮影を進めるとすぐにレンズの性能に感動し納得してしまったので、私の意識は最適な構図を見つけるためにロケーションの細部に気を配るといった、クリエイティブな方向へと移っていきました。そして、頭上に広がる暗く美しい空に見入るという、撮影と同じくらい重要なことを楽しむことができたのです。
SIGMA 14mm F1.4 DG DN | Art, SIGMA fp L, ISO 3200, F1.4, 30s, ソフトフィルター使用
その後、夜が明けるまで同じようなことを繰り返しました。新しい場所に到着し、ワクワクしながら背面モニターを確認し、すぐに次のショットについて考える。雲がほとんど消え去り、風が完全に収まった後、この夜最高の瞬間が訪れました。浅い水面が鏡になり、夜空を映し出していたのです。小型の三脚を使ってカメラを水面すれすれにセットし、信じられないほど独創的なシーンを撮影しました。
凪いだ海の上で星を見、撮影していると、天の川を撮影した最初の夜に戻ったような気持ちでした。その光景の美しさと出会い感嘆したときと同じように、驚きと畏敬の念を抱いたのです。その日撮影した写真を見るのが待ちきれない思いでした。
芸術―Artがもたらす最高の瞬間は、私たちに"何か"を感じさせてくれるときです。私のレンズに対する最大の賛辞のひとつに、ひとたびカメラに装着すれば存在を忘れてしまうというものがあります。機材の限界や欠点に苛まれず、ただその瞬間に集中できるレンズだということです。運が良ければ、それは撮られた写真にも反映されます。私は、一瞬でSIGMA 14mm F1.4 DG DN|Artがとても特別なレンズであることを確信しました。私も含めすべての天体写真家にとって、カメラバッグにあるだけでワクワクさせてくれる、そんなレンズだと思うのです。