平凡な世界の中に、
変わりゆく喜びを見出す

許戊德
Hsu Wu Te

18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary Special Impression

旧暦の7月には、黄泉の門が開きます。この時期には、数多くの霊や魂が現世へと戻ってきます。残念ながら、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、「放水燈」や「搶孤」、「燒王船」などの大きな祭をはじめ、数多くの重要な宗教行事が中止となりました。このような行事は文化的慣習であるとはいえ、長い年月のうちに一般市民の生活に神仏のイメージが浸透した現在では、生活に深く根ざしたものとなっています。時代とともに都市は発展し、変化してきましたが、古くからの寺院は大樹のように人々と環境に溶け込み、都市のあらゆる場所にひっそりと佇んでいます。そしてそのような寺院に目を向けたとき、私たちには長い歴史があるのだということに気づくのです。

SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary,
Sony α6500, ISO 200, F8, 1/800s

SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary, SIGMA fp, ISO 200, F8, 1/400s

SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary,
Sony α6500, ISO 800, F2.8, 1/1000s

SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary,
Sony α6500, ISO 200, F4, 1/100s

SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary, Sony α6500, ISO 800, F4, 1/125s

都市を散策しながら新たに完成した寺院のそばを通りかかったとき、寺院の管理人が誇らしげにその物語を語っていました。「この寺院は百年の歴史を誇る龍山寺※1のように静寂につつまれてはおらず、天后宮※2のように賑やかでもありません」。しかし、彼は私に向きなおり、「いまから百年後、この済安宮は、一世紀分の歴史を持つ寺院となります。しかし、長い歴史の流れのなかで、その寺院が何年古いかというのはささいなものです。そう、あなたがいま撮影する写真こそが、未来にとっては大切な歴史の1ページとなるのです」と言ったのです。私は彼に微笑みかけましたが、その管理人が誇らしげに語る新しい金色の寺院を撮影することはありませんでした。その代わり撮影したのは、寺院の隣の濾過池に使用されているオレンジ色のフィルター。その柔らかな素材は彫刻のような趣きを持っていて、高さ数十フィートの神像や仏像よりも親しみやすく、物事の真髄を如実に表すものであると感じたのです。

※1
台湾彰化県鹿港鎮にある観音寺。

※2
中国の海の女神である媽祖を祀った台湾彰化県鹿港鎮の中国寺院であり、この島で最も有名で人気の高い媽祖寺院のひとつ。媽祖は、中世の福建省の巫女であった林黙娘が神格化された女神。

SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary,
SIGMA fp, ISO 800, F9, 1/100s

SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary,
SIGMA fp, ISO 800, F6.3, 1/100s

SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary,
SIGMA fp, ISO 500, F2.8, 1/320s

SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary, Sony α6500, ISO 640, F2.8, 1/100s

パンデミックにより、寺院にあふれていた礼拝者の数は減りましたが、その代わりに伝統的な大道芸が再開されました。大道芸の人形は静かに途絶えることなく、人々を映しています。年月とともに、寺院の礼拝行事に参加する人々の数は次第に減り、伝統的な指人形劇の人気も衰え人影もまばらになっていきましたが、それでも指人形劇が姿を消すことはありません。

私は寺院の管理者に、このようなプログラムを上演し続ける理由を尋ねました。すると「この大道芸に集まる人々は、まさしく神のみへの捧げ物なのです。だからこそ、パンデミックを巡る状況がどれほど厳しいものであろうとも、この演劇を通じて今年も神がこの地に与えてくれる恵みと配慮への感謝の思いを届け続けたいといまでも願っているのです」という答えが返ってきました。プログラムもまた時とともに進化します。私たちは、その衣装や見た目の細部から、人形たちが演じる役割や物語の筋を理解することができます。観衆と人形とを分けていたぼんやりとした境界線は、さらに曖昧なものになっています。今や舞台の中でも外でも、興味深い歌劇が演じられているからです。このような時代にひとりの人間であることの本質とはどこにあるのでしょうか?これは考えるだけの価値のある問いだと思います。

SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary,
Sony α6500, ISO 500, F9, 1/800s

SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary,
Sony α6500, ISO 250, F8, 1/320s

SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary,
Sony α6500, ISO 200, F8, 1/250s

日常的な街の風景から受ける印象は、徐々に曖昧なものになっていきます。なぜなら、私たちはその風景にあまりにも慣れ親しんでしまい、そこから得られる情報に飽きてしまうからです。カメラを構え、レンズを通して風景を見ることによって、媒体が変換されるわけですが、それに伴って世界も変わるのです。私は街角によく置かれているカーブミラーがとても好きです。カーブミラーは静かに佇んでいますが、いざというときには常に正しい道路情報と選択肢を私たちに示してくれます。眺める位置と方法を変えれば、それに応じて鏡に映る物も変化します。通りの端から鏡を見れば、物陰に隠れた道路と、その道路を駆け抜けるオートバイが見えるでしょう。その磨かれた丸い鏡面に近づけば、この変化する世界を私たちがどのように捉えているのかということが見えてきます。

※ 撮影データの記載なき写真はSIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary以外のレンズで撮影されています。

SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary,
Sony α6500, ISO 200, F8, 1/400s

ソーシャルメディアの流行に伴い、「六次の隔たり理論」が示す人々の繋がりで介する人数は減っていますが、人々の社会的交流も徐々に減ってきています。パンデミックの時期には、目に見える隔たりと目に見えない隔たりによって人々は隔離されることになりました。
SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporaryを通して撮影した場合、最短撮影距離はワイド端ではわずか12.1cm、テレ端では30cmです。そのため、目の前の食事の写真を簡単に撮影することができると同時に、互いに離れている家族をズームして撮影することもできます。実に便利です。

SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary,
Sony α6500, ISO 250, F2.8, 1/200s

SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary,
Sony α6500, ISO 250, F7.1, 1/800s

SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary,
SIGMA fp, ISO 1600, F2.8, 1/100s

この撮影では、SONY α6500とSIGMA fpを同時に使用しました。前者はAPS-Cカメラで、後者はフルサイズカメラなのでクロップモードで使用しています。いずれもとても軽量です。SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporaryを使用した場合、セット全体の重量は800gを下回ります。しかも驚いたことは、このサイズ感でF2.8の明るさだということ!寺院などの静謐で厳粛な雰囲気を表現するためには、まぶしい蛍光ランプの代わりに淡い光源を使用します。そのため、この多くの光量を取り入れることができる大口径F2.8が大きな役割を果たします。光明灯※3は美しいボケ味を生み出し、さらに深い感情を呼び起こします。そして何より驚いたのは、フルサイズカメラであるSIGMA fpとの重量が、SONY α6500との組み合わせよりもさらに軽いということです。その軽さは、これがフルサイズカメラであることを完全に忘れさせてくれます。クロップモードでの使用であっても、完全に頼りにすることができました。

※3
人々が寺院で明るい未来に向けて祈る際に掲げる灯明。

SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary,
Sony α6500, ISO 200, F5.6, 1/800s

SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary,
Sony α6500, ISO 640, F4, 1/50s

SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary,
SIGMA fp, ISO 400, F2, 1/80s

SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary,
SIGMA fp, ISO 800, F2.8, 1/100s

SIGMA 18-50mm F2.8 DC DN | Contemporary,
SIGMA fp, ISO 200, F2.8, 1/100s

このレンズを使うときにはいつも、英国の詩人ウィリアム・ブレイクの詩「無垢の予兆」の一節「一粒の砂に世界を見、一輪の野花に天国を見る」を思い出します。このレンズのダイナミックな焦点距離のおかげで、作品制作を通じ、同じ場所からであっても一見平凡な世界とはまったく異なる世界を目にし、常に新しい楽しみを見出すことができるのです。

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