小さくも高品質。
天体撮影の心強いパートナー
ジャック・フスコ
Jack Fusco
天体写真家の人生と冒険は既存の枠にとらわれない、独創的なものです。ほとんどの時間を暗闇の中で過ごすとはいえ、私たちは光のことをとても気にしています。都市や街の光を避け、何もない場所で何時間もかけて星の光を集めたり、長距離を旅し、撮影機材に対してほとんどの写真家がしないような要求をしたり。それはいつも先の読めない冒険ではありますが、適切な計画と機材があれば、素晴らしいやりがいをもたらしてくれます。
35mmの焦点距離が異世界のような風景に最適なスケールを提供してくれました
SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art, Sony α7R III, ISO 1600, F2, 6 s
早速SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Artの出番です。私が天体写真を撮るレンズに常に求めることは、
- 明るさ
- 画の端から端まで明るく、シャープであること
- 長持ちする作り
- 軽量
正直、これらは単焦点レンズに対する比較的ベーシックな要望で、SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Artは全てを満たしています。撮影に出るとき、不要な選択肢でいっぱいのバッグより、必要な機材のみが入った軽いバッグと一緒の方が嬉しいものです。デジタル一眼レフカメラ用のSIGMA Artラインが長きにわたり私のバッグの主要メンバーでしたが、より軽く、よりコンパクトな新設計のミラーレスカメラ用レンズは私の旅路に大歓迎の1本となりました。
私の写真の多くは何週間から何か月間も前に計画されて撮影されています。待つのは、月の満ち欠けや、天候、天体が文字通り一直線になること、そのすべてが組み合わさる瞬間ですので、その狙った瞬間が訪れたときに準備ができていることが大切です。私はほぼどんな時でも、今後1年の撮影計画をスラスラと答えられます。
SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Artの最初の夜景遠征場所を選んでいるとき、瞬時に思いついたのがデスヴァレーでした。デスヴァレーは最も有名な国立公園というだけでなく、2013年に国際ダークスカイ協会から国際ダークスカイ公園に認定されています。私の計画は、月明かりの下一夜を過ごし、その素晴らしい景観を星空とともに表現すること、また新月の時期に再び撮影し、ここが何故ダークスカイ公園に認定されたのかを示すことでした。
月明かりの元で通常露光
強い風が低い雲と眼下に広がるヴァレーを覆う塵を運んできました
SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art, Sony α7R III, ISO 1600, F2.8, 6 s
高度5,476フィート(1,669m)にあるダンテズ・ビューが、月光に輝く最初の目的地です。低い雲と谷底から巻き上がる塵がドラマチックな状況を演出していましたが、残念なことに私にとってはその厳しい風が私の行く道に吹きつけていることを意味していました。予報では、私が撮影を開始する少し前から徐々におさまると伝えていましたが、止む兆候は見られませんでした。
月光の明るさと明るいレンズがレイヤーごとのディテールを引き出します。
SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art, Sony α7R III, ISO 800, F1.4, 6 s
明るいレンズと月明かりが、露出時間を短縮させてくれました。おかげで、風が一時的に止む短い時間を有効に使い、撮影することが出来ました。この時このレンズの絞りリングを初めて触りましたが、すぐに気に入りました。レンズの実力を評価するのに理想的とは言えない状況ではありましたが(気に入った写真が撮れるのは大体そういう状況下なのですが)、拡大したときにどう見えるかや、画像の隅に写った星の見え方をじっくりと確認しました。結果は端的に言ってとてもわくわくするものでした。画の端から端まで、開放から素晴らしい写りを見せてくれたのです。
月明かりによってユニークなシーンが撮れました。このレンズのシャープさがこの写真のディテールに特に表れています
SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art, Sony α7R III, ISO 1600, F2, 6 s
次に、この公園で同じくらい美しいエリアでありながら、風はいくらか弱い、ザブリスキーポイントへ向かいました。日の出や日の入りでよく撮影されますが、私は月明かりを利用してその素晴らしい景色を撮りたかったのです。
天体写真では超広角レンズが使われることが多いですが(私もその1人で、SIGMA 14mm F1.8 DG HSM | Artが大好きです)、私はドラマチックな風景を強調できるより長い焦点距離のレンズを使った撮影もとても好きです。焦点距離が長くなれば、星を短い線状ではなく光の点に見せようとするとき、露出できる時間が短くなるため、難しいところもあります。天体写真において、星はシャープな点、またはきれいな線状に表現したいものであり、意図せず短い線状で映ってしまうとやはり美しくないのです。これが先にも触れた明るいレンズが欠かせない理由のひとつです。
フレームのすぐ外にある月がドラマチックな光と影を演出
SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art, Sony α7R III, ISO 1600, F2, 6 s
ザブリスキーポイントの恐らく最も有名な景色。月明かりのシャワーで非日常感を
SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art, Sony α7R III, ISO 1600, F2.8, 3.2 s
風はいまだ遠くで塵を巻き上げ、月に照らされてよりドラマチックな背景をつくり続けていました。この風景は全くの暗闇で撮影をすると、ここを訪れる人々を魅了するそのユニークで特徴的なディテールが失われてしまいます。
ほぼ全方位を撮影した後、35mmという焦点距離が、夜間この計り知れない景観を捉えるのに完璧な選択だと証明してくれました。
腕が試される峡谷
多重露光がこの素晴らしい峡谷のディテールを精密に引き出してきます
SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art, Sony α7R III, ISO 3200, F1.4, 52 s
月明りでの撮影、最後の舞台はナチュラル・ブリッジ・トレイルでした。1マイルほどの短いハイキングを経て出逢えるのは印象的な峡谷を横切る50フィートのアーチです。この場所での撮影が難しいことは予測していました。峡谷が深く内側まで月明かりが届きにくいのです。
そのためこれまでの通常露出からアプローチを変えました。より長い露出時間あるいは追加のライティングが、ディテールを引き出すためには必要だとわかっていたからです。納得のいく構図が決まれば、何が必要かを探る準備は整いました。
最終的な画像を作るための3つの露出とそれぞれの目的
SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art, Sony α7R III, ISO 3200, F1.4, 5 s
画面に人物を置くことでスケール感と神秘的な雰囲気が伝わる画になりました。
SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art, Sony α7R III, ISO 3200, F1.4, 5 s
ダークスカイと認定された場所
月明かりでの撮影結果を見た後、私は空が一番暗くなる新月の頃再びその場所に戻ることを楽しみにしていました。私の計画はSIGMA 35mm F1.4 DG DN | Artを本当に暗い夜に試しつつ、様々な撮影技術を駆使しながら公園を歩くというものでした。
日没のおよそ1時間後、宇宙の塵の粒子がまだ残る日光に照らされ、黄道光と呼ばれるかすかな輝きを作り出しています。最初に2枚、空の写真を撮影してから、カメラのタイマーをセットして砂丘へ全力疾走しました。
SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art, Sony α7R III, ISO 3200, F1.4, 10 s
日没後の黄道光を捉えるため、私はメスキートフラット砂丘から撮影を始めることにしました。黄道光は本来ほんのかすかな明るさのはずなのですが、光害がないためか予想に反して明るく見えることに驚かされました。ブルーアワーの間にも撮影する時間を取りましたが、私は既に黄道光撮影の構図を決めていました。縦構図に前景を入れることで、遠くの砂丘まで駆け上がって作った私のシルエットも追加でき、画像に欲しかったスケール感を与えることができました。
このユニークな峡谷のカラフルなディテールをより引き出すため、前景を長時間露出で撮影することにしました。
空は短い露出で撮影して星のシャープさは維持し、後処理でその2つの露出を合わせました
SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art, Sony α7R III, ISO 3200, F1.4, 10 s
砂丘を後にし、次に向かった先はアーティスト・パレットです。このエリアは酸化した岩石中の金属による鮮やかで独特なカラーで知られています。周囲に光が全くないなか、岩石中のユニークな色をいくつか捉えるため、60秒の露出で星に照らされた前景を撮影しました。1分程の露出の後、10秒の露出で空を撮影し、後処理でその2つの露出を合わせました。
天の川を捉えることのできる短い時間
その夜の前半で撮影した写真にわくわくする一方、私はそれ以上に、最後の2か所のロケーションを楽しみにしていました。次の撮影場所である、有名なバッドウォーター・ベイシンの塩水湖には、ちょうど天の川が地平線に昇る時間に到着するよう予定を組んでいたのです。この場所は2つの異なるテクニックを使って星を捉えるのに最適な場所です。赤道儀という長時間露出を可能にするデバイスを用い、それをとてもゆっくり回すことで星をシャープに維持しつつ、ノイズを減らすために後処理で重ねる画像を撮りました。
明るいレンズと私のミラーレスカメラのライブビューの組み合わせは、眩い星へのフォーカスをどのロケーションでもとても容易にしてくれました。バッドウォーター・ベイシンでの最初のテスト撮影はF1.4の開放で撮りました。ディテールの描写力と画面の端から端までのシャープさは見事でした。私は撮影した天の川をカメラの背面で数秒間確認した後、赤道儀を使って空を撮影し、次に赤道儀の電源を落として前景の撮影をし、その広大なパノラマを捉えました。
赤道儀と明るいレンズの組み合わせにより、天の川の信じられない量のディテールが
この広大なパノラマに映し出されました
SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art, Sony α7R III, ISO 3200, F1.4, 30 s
パノラマを撮影し終えた私は次に余計な機材を一切必要としない撮影方法を試したくなりました。高いISOでいくつかの異なる露出で撮影し、後処理で重ね、詳細でクリーンな画像を作り出すというものです。
この画像は連続的に露出し、ノイズを減らすため後処理でそれらを積み重ねています
SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art, Sony α7R III, ISO 12800, F1.4, 8 s
最後の目的地として、私は月明かりの下でも訪れたロケーション、ダンテズ・ビューに戻ることを計画していました。1年のうちのこの時期、天の川はトレイルの左側から少し離れたところにあり、それはもうひとつの大きなパノラマ写真を撮影するのにうってつけの場所なのです。時間はあまりありませんが、ありがたいことに今回強い風は吹いていません。刻々と近づく日の出の時間と競うように空の写真を撮り、前景写真を撮りました。自分の姿は合成で入れたくはなかったので、前景フレームの中央に向けタイマーをセットし、その場所に走りました。
デスヴァレーの星を追う2晩を締めくくる素晴らしい眺め
SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art, Sony α7R III, ISO 3200, F1.4, 10 s
眠る前のコーヒー
カメラのプレビュー画面で撮影結果を確認し、"これだったら大丈夫"と安心して終わる夜もあれば、そのプレビューがあまりにもわくわくさせるので眠る前にもう一度見たくなる夜もあります。言うまでもなく、私はこの撮影期間中毎晩コーヒーを淹れて、眠る前に画像を確認していました。
どれだけ計画を立てても、コントロールの及ばないことは常にあることで、計画通りに行かないなんてことには慣れている私です。そんな私ですが、今回SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Artを難しい条件下での撮影に使ったにも関わらず、それでも人に見せるのが待ちきれないような作品を撮り得たということは、それだけで、とても説得力のある体験でした。撮影中もプレビュー画面で画像を確認していましたが、編集中に改めて確認したとき、新たな感動を覚えました。月明かりで撮影したそれらは夜に撮られたものに対する期待を優に超える鮮明さを持っていました。
これら全ての品質がこの小さなサイズに、そして論争の余地はあるものの天体写真に最適な焦点距離のひとつである35mmでもあり......そういう訳で、このレンズはすぐに私のバッグに定位置を得ました。そして、同じように感じるのは私だけではないはず、という強い確信があります。