15年間の連載を振り返る(前編)

押本龍一「私の出会う光景」|第355回

押本龍一「私の出会う光景」

November 13, 2024

1回:冬を感じ始めたジョシュア・ツリーへ (前編) 掲載日:2010/01/05

https://www.sigma-global.com/jp/special/oshimoto_photoessay/2010/20100105.html
シーズンオフの日曜日の午後、週末からのキャンパーはほとんど立ち去り、この日から来る新しいキャンパーもあまり見かけなかった。私は巨岩に囲まれたジャンボ・ロックスというキャンプ場に小さなテントを張った後、カメラバックを肩からかけ巨大な岩の周りを散策した。絵になる巨岩を探していると、若者が巨岩の上に腰を下ろし広大な風景を眺めていた。若者の後ろ姿に自分自身を投影してシャッターを切ると、独自のシャッター音が乾いた空気の中に消えて行った。使用したコンパクトなDP2は、当時の一眼レフに劣らないセンサーサイズを搭載し、それだけでも画期的だったが、唯一無二のFoveonセンサーから得られる画像は、フイルムカメラで撮った様な立体的と臨場感あり、デジタルカメラに違和感を感じていた私に新たなる可能性を示してくれた。

(注)PC版では左右がクロップ表示されるので、ダウンロードボタンをクリックして見て欲しい。

【使用機材】 DP2

2010年1月からスタートしたフォトエッセイの新しい投稿は、2024年の今年いっぱいで終了となります。15年間の連載には様々な思い出があり、その中で印象に残るタイトル写真を再現像し、今月と来月の2回に渡り掲載いたします。なお、掲載当時のタイトル写真は全て横長写真で、第317回目(248回と250回を除く)まではモノクロでしたが、画像のアスペクト比をオリジナルにし、カラーに現像したものもあります。

6回:冬のビッグパイン、ビショップ 掲載日:2010/03/19

https://www.sigma-global.com/jp/special/oshimoto_photoessay/2010/20100319.html

カリフォルニア州の中央東部に位置するインヨー郡の冬の朝は冷え込んでいたが、昼間は半袖で行動できるほど温度が上がった。USルート395から逸れて白い雪にカバーされた山へ向かいローカルな道をゆっくり走って行くと、山まで続いているように見える大きな牧場に突き当たった。道路との境に等間隔にたてられた太さが違う木の棒の柵がなければ、牧場はただの荒野に見えた。そして、広大な土地にいる馬の位置、白い雪山とのコントラストが絶妙だった。暖かい冬の午後に撮影した画像は、暖かみの感じる温黒調のモノクロームにし、背景の白い山のディテールを失わないように仕上げた。

【使用機材】 DP2

7回:モニュメント・バレーへ 掲載日:2010/04/05

https://www.sigma-global.com/jp/special/oshimoto_photoessay/2010/20100405.html

朝陽がなかなか届かない乾燥した大地で、メサとビュートがつくる明暗のはっきりした光景は、影絵のようでシンプルだが強烈なイメージだった。この朝の冷え込みは非常に厳しく、手袋をしていても手はかじかみ、体は芯まで冷え切り、両手をこすり合わせながら大きな岩山から昇る太陽を待った。待つ時間が長く感じた朝陽が届き始めると手袋も毛糸の帽子も要らなくなり、この日は雲ひとつない快晴となった。モニュメント・バレーは、アメリカ合衆国西南部のユタ州南部からアリゾナ州北部にかけて広がる一帯で、モニュメントが並んでいるような景観からモニュメント・バレーと名付けられ、多くの西部劇映画の撮影が行われた。

【使用機材】 SD14

23回:秋のカナディアンロッキー 中編(クートネイ、ヨ-ホー、バンフ国立公園)掲載日:2010/12/03

https://www.sigma-global.com/jp/special/oshimoto_photoessay/2010/20101203.html

アルバータ州最大、カナダ国内第3位の都市であるカルガリーから北上し、カナディアンロッキー観光の中心地であるバンフ(Banff)で連泊した後、北に走った。国立公園の入り口で渡された案内書には、ルイーズ湖を境にバンフ国立公園を2つに分けて説明している。その北の部分に私は足を踏み入れた。標高2,255mのパーカーリッジ(Parker Ridge)を少し登ると森林限界線を超え、風と光をさえぎる物が何もなくなり、サスカチュワン氷河(Saskatchewan Glacier)が一望出来た。太陽がいっそう眩しく、それまで感じなかった冷たい風が強く吹き抜け、強い陽光がレンズに入り込むのも気にせず撮影した。カナディアンロッキーの私の旅はまだ先へ続いた。

【使用機材】 SD15 , 10mm F2.8 EX DC FISHEYE HSM

28回カリフォルニア州、セントラル・コースト(後編)掲載日:2011/02/18

https://www.sigma-global.com/jp/special/oshimoto_photoessay/2011/20110218.html

カリフォルニア・ステート・ルート1(パシフィック・コースト・ハイウェイ)を海岸から少し離れて森の中を走り、再び海岸線に出ると海面に霧がかかる美しい海岸の景色が待っていた。西は太平洋が広がり、東は北のモントレーから南のサン・ルイス・オビスポまで170km続くサンタ・ルシア山脈が連なり、カーメル川からサン・カポフォロ・クリーク間の約36kmのビックサー(Big Sur)と呼ばれる地域は、山脈が海岸線まで迫る険しい岸壁が続き、景色を堪能しながらのドライブは楽しい。この朝、私は朝焼けが美しいビッグサーから朝陽が昇るのを待った。

【使用機材】 SD15 , APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM

46回:アメリカの東の果てからカナダの小さな島へ(前編)掲載日:2011/11/16

https://www.sigma-global.com/jp/special/oshimoto_photoessay/2011/20111118.html

カンポベッロ島(Campobello Island)の北端で灯台を撮っていた私に、散歩中の老人が話かけてきた。「灯台がもっとよく見える場所があるからそこへ下りてみて」と、老人が教えてくれた場所は足場が悪かったが、灯台施設と周囲の雰囲気がよくわかる写真が撮れた。小雨の中、濃霧、高潮、危険な岩から船を守ってきたヘッド・ハーバー灯台(Head Harbour Lighthouse)から規則正しく発せられる神秘的な赤い光を見ていると、今晩はこの島に宿を取ってもいいかなと思った。カンポベッロ島は、カナダのニューブランズウィック州シャーロット郡に属し、潮の満ち引きが激しいファンディ湾の入り口に位置し、アメリカ合衆国のメイン州とフランクリン・デラノ・ルーズベルト橋で接続されている。

【使用機材】 SD1 , 50mm F1.4 EX DG HSM

61回:アリゾナ州西部からローカルな道を北上する 掲載日:2012/07/05

https://www.sigma-global.com/jp/special/oshimoto_photoessay/2012/20120705.html

カリフォルニア州からコロラド川を渡ってアリゾナ州に入り、48kmほど東のフリーウェイを出て州道60を北東へ走った。ローカルな道をあてもなく走って行くと白いゲートが荒野に見えた。近づくと長い角に迫力を感じるカウスカル(牛の頭蓋骨)が、3mほどの高さにある鉄の棒にしっかりと取り付けられていた。5月下旬、フリーウェイからこれといった目的もなく立ち寄ったアリゾナ州西部ラパスカウンティー(La Paz County)のサローメ(Salome)は、強い日差しが照りつけサングラスが不可欠だった。

【使用機材】 SD1 Merrill , 85mm F1.4 EX DG HSM

62回::羽黒山へ 掲載日:2012/07/23 

https://www.sigma-global.com/jp/special/oshimoto_photoessay/2012/20120723.html

6月中旬、日本に一時帰国していた私は、夜間に友人の運転で一睡もせず山形県鶴岡市の羽黒町に向かった。思ったより早く東の空が白々と明るくなり始め、5時前に山形県道47号線(通称羽黒街道)に建つ大鳥居の前で陽が昇った。この地域は1週間ほど前に梅雨入りし天候が心配だったが、雲ひとつない日の出に恵まれた。羽黒町に早朝到着した後、仮眠を取ってから行動を開始する予定だったが、朝陽を浴びると眠気がどこかに消えてしまい、月山・羽黒山・湯殿山の三神を合祭した大きな三神合祭殿(さんしんごうさいでん)と呼ばれる社殿が建つ羽黒山の頂上まで、老杉に囲まれた石段の参道を汗だくになって登った。

【使用機材】 SD1 Merrill , 50mm F1.4 EX DG HSM

66回:ホワイト山脈、ブリッスルコーン・パインの森へ(後編)掲載日:2012/09/20

https://www.sigma-global.com/jp/special/oshimoto_photoessay/2012/20120920.html

カリフォルニア州東部を南北に連なるシェラネバダ山脈の東側に並行し、南北に連なるホワイト山脈南部。陽が昇って間もない標高約3,330mの高地で、1本のブリッスルコーン・パイン(Bristlecone Pine)を撮影した。古い木は、多くの先住民文化の宗教儀式の中で重要な役割を持っていた。特にブリッスルコーン・パインのような古く雄大な木は、永遠の自然力、長寿、困難を乗り切るための生命の象徴とされてきた。朝陽を浴びたブリッスルコーン・パインはいくら眺めていても飽きることはなく、透き通るような空気の中、誰も来ない岩の斜面に居座った。

【使用機材】 SD1 Merrill , 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM

68回:ラッセン火山国立公園の夏の終わり(後編)掲載日:2012/10/19

https://www.sigma-global.com/jp/special/oshimoto_photoessay/2012/20121019.html

真っ青な空と、黒ずんだCinder Cone(噴石丘)が対象的だった。噴石丘に向かうトレイルを歩いて行くと、噴石丘を登るハイカーの足元から強い風で砂煙が上がり、その瞬間を大口径望遠ズームレンズで遠くから捉えた。北カリフォルニアにあるラッセン火山国立公園(Lassen Volcanic National Park)北東部の隅に位置する黒い噴石丘は、約350年前に誕生したラッセン地域で最も新しい苦鉄質火山で、主に鉄やマグネシウムが豊富な黒い玄武岩質溶岩によって形成されている。私は、彼らを追うように高さ215mの噴石丘を登り、大きく口を開けた直径300m火口内に下りてみた。

【使用機材】 SD1 Merrill , APO 50-150mm F2.8 EX DC OS HSM

73回:冬本番迫るヨセミテ渓谷へ(後編)掲載日:2013/01/10

https://www.sigma-global.com/jp/special/oshimoto_photoessay/2013/20130110.html

12月中旬、午後3時半になるとヨセミテ渓谷に陽の光は届かなくなり寒さが増してきた。この日の朝、トンネル・ビューと呼ばれる絶景ポイントから刻々と変化する渓谷の光景を記録した私は、夕方の光景も記録するため午後の4時ごろトンネル・ビューへ上がった。雪を被った標高3,025mの山クラウズ・レスト(Clouds Rest)、その右手前の半球を縦に割ったように見える標高2,682mのハーフ・ドーム(Half Dome)、手前の標高2,145mのセンチネル・ロック(Sentinel Rock)、左手前にそびえ立つ標高2,307mの絶壁エル・キャピタン(El Capitan)が、西に沈んでゆく陽の光に染まっていた。私は朝撮影したほぼ同じ位置に三脚を構え、夕方の光景を記録した。

【使用機材】 SD1 Merrill , 35mm F1.4 DG HSM | Art

94回:シャスタ山周辺の晩秋 掲載日:2013/11/20

https://www.sigma-global.com/jp/special/oshimoto_photoessay/2013/20131120.html

シャスタ山南西のキャッスル・レイクで偶然出会った女性は、「湖の少し上で今日から3日間キャンプをします。テントはもう張ってあり、景色がすばらしくあなたもきっと気に入ると思いますよ。私について来ませんか?」と言い、私は彼女に付いて行った。登った先は岩場のテラスといった感じで、南の岩山のキャッスル・クラッグスと、北のキャッスル・レイクの間に位置することから地元ではキャッスル・ピークと呼ばれているようだ。北東にはシャスタ山が近くに見え、澄んだ風が気持ちよく通り抜けていた。「あなたのテントはどこですか?」と訊くと、女性は松の木を指差し「龍に見えるでしょう?その向こうの岩山はシャスタ山より古く、沈んだレムリア大陸の一部と言われているのよ」と笑顔を浮かべて言った。テントは、地面を這うように生える松の枝の中に隠れるように張られていた。

【使用機材】 SD1 Merrill , 18-35mm F1.8 DC HSM | Art

今回は、15年間の連載で印象に残るタイトル写真(2010年〜2013年の中から)12点を選び、再現像して掲載しました。次回も(2014年〜2021年の中から)12点を選び再現像して掲載いたします。

ジャンボ・ロックス

カメラ

SIGMA DP2

レンズ

シャッタースピード

1/125s

絞り値

F8.0

露出モード

M-マニュアル露出

ISO感度

100

焦点距離

24.2mm(35mm換算:41mm)

カラーモード

スタンダード

ホワイトバランス

モノクローム

カメラ

SIGMA DP2

レンズ

シャッタースピード

1/125s

絞り値

F9.0

露出モード

M-マニュアル露出

ISO感度

50

焦点距離

24.2mm(35mm換算:41mm)

カラーモード

スタンダード

ホワイトバランス

モノクローム

カメラ

SIGMA SD14

レンズ

SIGMA APO 120-300mm F2.8 EX DG HSM

シャッタースピード

1/2000s

絞り値

F5.6

露出モード

M-マニュアル露出

ISO感度

50

焦点距離

120mm(35mm換算:204mm)

カラーモード

スタンダード

ホワイトバランス

モノクローム

カメラ

SIGMA SD15

レンズ

SIGMA 10mm F2.8 EX DC FISHEYE HSM

シャッタースピード

1/500s

絞り値

F11

露出モード

M-マニュアル露出

ISO感度

100

焦点距離

10mm(35mm換算:17mm)

カラーモード

ニュートラル

ホワイトバランス

モノクローム

カメラ

SIGMA SD15

レンズ

SIGMA APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM

シャッタースピード

1/800s

絞り値

F4.0

露出モード

M-マニュアル露出

ISO感度

100

焦点距離

86mm(35mm換算:146mm)

カラーモード

風景

ホワイトバランス

晴れ

カメラ

SIGMA SD1

レンズ

SIGMA 50mm F1.4 EX DG HSM

シャッタースピード

1/500s

絞り値

F5.6

露出モード

M-マニュアル露出

ISO感度

200

焦点距離

50mm(35mm換算:75mm)

カラーモード

風景

ホワイトバランス

オート

カメラ

SIGMA SD1 Merrill

レンズ

SIGMA 85mm F1.4 EX DG HSM

シャッタースピード

1/160s

絞り値

F11

露出モード

M-マニュアル露出

ISO感度

100

焦点距離

85mm(35mm換算:127mm)

カラーモード

スタンダード

ホワイトバランス

モノクローム

カメラ

SIGMA SD1 Merrill

レンズ

SIGMA 50mm F1.4 EX DG HSM

シャッタースピード

1/250s

絞り値

F8.0

露出モード

M-マニュアル露出

ISO感度

100

焦点距離

50mm(35mm換算:75mm)

カラーモード

スタンダード

ホワイトバランス

モノクローム

カメラ

SIGMA SD1 Merrill

レンズ

SIGMA 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM

シャッタースピード

1/160s

絞り値

F8.0

露出モード

M-マニュアル露出

ISO感度

200

焦点距離

9mm(35mm換算:13mm)

カラーモード

風景

ホワイトバランス

晴れ

カメラ

SIGMA SD1 Merrill

レンズ

SIGMA APO 50-150mm F2.8 EX DC HSM

シャッタースピード

1/800s

絞り値

F4.0

露出モード

M-マニュアル露出

ISO感度

200

焦点距離

150mm(35mm換算:225mm)

カラーモード

風景

ホワイトバランス

晴れ

カメラ

SIGMA SD1 Merrill

レンズ

SIGMA 35mm F1.4 DG HSM | Art

シャッタースピード

1/40s

絞り値

F11

露出モード

M-マニュアル露出

ISO感度

100

焦点距離

35mm(35mm換算:52mm)

カラーモード

風景

ホワイトバランス

晴れ

カメラ

SIGMA SD1 Merrill

レンズ

SIGMA 18-35mm F1.8 DC HSM | Art

シャッタースピード

1/124s

絞り値

F9.0

露出モード

M-マニュアル露出

ISO感度

100

焦点距離

18mm(35mm換算:27mm)

カラーモード

風景

ホワイトバランス

晴れ

押本 龍一

フォトグラファー

東京品川生まれ。1982年留学予定で渡米。1984年ニューヨークへ渡り広告写真スタジオで働き始める。1991年フォトグラファーとして独立。1995年ニューヨークからロサンゼルスへ移動。2018年より日本を拠点にし現在に至る。

oshimoto.net