ケイワタバコが咲く散在ガ池森林公園 / To Sannzagaike Forest Park where Conandron ramondioides flowers bloom

押本龍一「私の出会う光景」｜第346回

押本龍一「私の出会う光景」

June 20, 2024

神奈川県鎌倉市にある森林公園の湿った岩壁に、ケイワタバコの群落を見つけたが、形の良い花は意外と少なく、三脚を立てるのにも不都合な場所だった。私は、近づける範囲内で撮りたい花を見つけ、岩壁前のぬかった地面にひざまずき、手持ちで撮影した。写真は中望遠マクロレンズによる素直なボケ味が得られ、ズボンを泥だらけにして撮影した甲斐があった。

（注）PC版では左右がクロップ表示されるので、ダウンロードボタンをクリックして見て欲しい。

【使用機材】 fp , 105mm F2.8 DG DN MACRO | Art

5月の末、神奈川県鎌倉市の今泉台にある散在ガ池森林公園に咲くケイワタバコの花が、見頃だとの記事を見た。ケイワタバコの花を撮ったことはなく、どんな花かも認識もしていなかったが、森林公園とその周辺にも興味を持ち、6月の始めに森林公園へ行ってみた。当日の朝は、JR大船駅から「江ノ電バス鎌倉湖畔循環」に乗った。森林公園へ直行するなら今泉不動で下車するのだが、ひとつ手前の白山神社前で下車し、大ムカデを模したしめ縄で知られている白山神社へ立ち寄った。源頼朝が創建したと言われる白山神社は、境内に至る参道入り口は狭く、神社の境内も本殿も大きくはないが、深い森に囲まれ、落ち着きのあるいい神社だった。

石段を登り切り、境内に上がると大ムカデを模したしめ縄が本殿前にかかっている。しめ縄の下を通り、新緑を背景にしめ縄を見上げて撮影した。

【使用機材】 fp , 24mm F1.4 DG DN | Art

参道の紫陽花はまだ早かったが、本殿横の紫陽花は朝露に濡れて綺麗に咲いていた。まだ咲き始めだったが、鬱蒼とした森が控える境内で一際目を引く存在だった。

【使用機材】 fp , 24mm F1.4 DG DN | Art

森林公園の北に位置する白山神社からは、800mほど東にある称名寺の境内にある「陰陽の滝」へ歩いた。称名寺は浄土宗の寺院で、山号は今泉山。本尊は阿弥陀如来。通称は今泉不動。もともとは円宗寺という寺で、空海（弘法大師）が開いたと伝わる不動堂の別当を兼ねていた。伝説によると、現在の滝が流れてくる奥の土地を、かつては金仙山と呼び仙人が住んでいた。諸国を巡っていた空海がこの地に辿り着くと、白髪の男女の仙人が現れ、「不動明王を彫り、霊場を開くように」と命じ、空海が不動明王に祈祷すると岩肌に2つの穴が開き、3日間の祈祷後には水が湧き出して滝になった。それ以来、水が出る金仙山を今泉山（こんせんざん）と記すようになり、土地は今泉（いまいずみ）と称するようになったとのことだ。

右手前の男滝と左奥の女滝の2つの滝からなる「陰陽の滝」は水量も多く、予想以上に立派だった。ここからの水の流れは砂押川となり、やがて柏尾川、境川に合流し相模湾に注いでいる。三脚にカメラを据え、しっかりと構図を決めて撮影した。

【使用機材】 fp , 24mm F1.4 DG DN | Art

地元では、お不動さまを祀る「今泉不動の滝」として知られている「陰陽の滝」。苔むした不動明王にフォーカスし、男滝を適度にぼかした。

【使用機材】 fp , 24mm F1.4 DG DN | Art

不動明王を右手に置き、女滝をぼかした写真も撮ってみた。滝の周辺は濃い緑に覆われ、マイナスイオンに包まれた気持ちの良い空間だった。

【使用機材】 fp , 24mm F1.4 DG DN | Art

称名寺の境内で、六地蔵の隣に岩崖を掘って祀られた石仏があり、その横からケイワタバコらしき花が伸びていた。

【使用機材】 fp , 24mm F1.4 DG DN | Art

マップで見ると称名寺の境内は、大きなゴルフ場の西端にくっついている様に見えるので、称名寺がなければ境内はゴルフ場の敷地になっていたかもしれない。そんな事を考えながら、不動橋で砂押川を渡り、森林公園の北口から公園内に入った。森林公園の道を南へ少し歩くと、草刈りをしている公園職員の男性が、私のカメラを見て何を撮りに来たのか尋ねてきた。私は、花の名前がとっさに出てこず「花です！」とだけ答えると、公園職員はすぐにケイワタバコのことだと分かり、「昨日の雨でだいぶ落ちてしまったかなー」と言い、群生が見られそうな場所を三箇所、丁寧に教えてくれた。

公園職員が作業をするすぐ側の黄色いテープが貼られていた入り口から、入ってもいいよと言われて下りてみた場所。ケイワタバコは見れなかったが木漏れ日がきれいな場所だった。

【使用機材】 fp , 24mm F1.4 DG DN | Art

別名を鎌倉湖と呼び、かつては農業用ため池だった池に鯉が泳いでいた、池の名前は「散在ヶ池」と称するが、公園の名は「散在ガ池森林公園」と表記される。

【使用機材】 fp , 105mm F2.8 DG DN MACRO | Art

この日、森林公園内で唯一見つけたケイワタバコの群生。イワタバコと似ているが、花茎、ガク、葉の裏面に毛があるので、その名前で呼ばれているそうだ。イワタバコも知らなかった私には見分けがつかなかったが、この地域ではイワタバコは咲かないようだ。

【使用機材】 fp , 24mm F1.4 DG DN | Art

ケイワタバコの花の大きさは1.5センチほどと小さく、マクロレンズの出番だった。岩壁に咲く花を見上げるように撮影した。

【使用機材】 fp , 105mm F2.8 DG DN MACRO | Art

この日は雲がかったが、時より差す日差しが湿った岩壁にも届いた。木漏れ日が透過光となったケイワタバコの花は、ガラス細工のように見えとても綺麗だった。

【使用機材】 fp , 105mm F2.8 DG DN MACRO | Art

公園職員の言った通り、昨日の雨でケイワタバコの花は大分落ちていたが、私的には満足出来る写真が撮れた。森林公園だけでなく、その周辺に興味を持って来たのも良かった。白山神社の境内では、静寂に包まれ落ち着いて撮影することが出来た。高い山のない土地だが、称名滝では、どこからともなく湧き出る豊かな水源を感じ取れた。神社仏閣が建ち並ぶ鎌倉の人気エリアからは少し離れてはいるが、人出も少なく撮影に集中出来るので、散在ガ池森林公園の周辺はカメラ好きにはお勧めだ。ケイワタバコを撮って森林公園を散歩した後は、気温がかなり上がり、エネルギーも残っていなかったので、バスに乗り大船駅へ戻った。次回は紅葉の時季に訪問し、南に位置する鎌倉最高峰の大平山を通る天園ハイキングコースへ繋いでみたい。