日本一のモグラ駅・土合駅(どあいえき) / Doai Station:Japan's No.1 Mole Station

押本龍一「私の出会う光景」|第343回

押本龍一「私の出会う光景」

May 09, 2024

列車がホームに到着したのは、トンネル内に列車のヘッドライトが見えてから約2分後だった。群馬県利根郡みなかみ町湯檜曽(ゆびそ)にあるJR東日本上越線土合駅の下り線ホームは、全長13.5kmの新清水トンネル内にある。当初、土合駅は、上り線も下り線も地上ホームを利用していたが、新清水トンネルの開通により複線化され、その時に建設されたのが下り線の地下ホームだ。下り線のホームから駅舎まで標高差は約70m462段の階段を約10分かけて登るため、「日本一のモグラ駅」と呼ばれている。

(注)PC版では左右がクロップ表示されるので、ダウンロードボタンをクリックして見て欲しい。

【使用機材】 fp L , 14mm F1.4 DG DN | Art

4月の初め、新潟県との県境近くにあるJR東日本上越線の土合駅周辺を散策した。前夜、新潟県南魚沼市に宿泊していた私は、当日の朝、新潟線/関越自動車道を南下して水上ICで下り、国道291号を土合駅まで北上した。まだ朝早く時間もたっぷりあったので、谷川岳ロープウェイの少し先にある県立谷川岳登山指導センター(山岳警備隊)まで上ってみた。国道291号はここでゲートが閉まり、「39日から412日まで谷川岳危険地区(全エリア)の登山を禁止します」と書かれたサインがゲートに貼ってあった。登山指導センターから一ノ倉沢までの約3kmの区間(通称一ノ倉沢道路)は、冬季の間閉鎖され、2024年の通行規制解除予定日は5171000分の予定だ。一般車両は年間を通して通行が出来ず、車で来た人は谷川岳ロープウェイの駐車場から歩くのが一般的で、週末は混雑するが電気ガイドバスも運行する。私は、谷川岳が何処を指すのかよく分からないまま土合砂防堰堤周辺を散策した後、清水トンネルを右手に見て、JR東日本上越線上り線の踏切を渡り土合駅に到着した。

山小屋をイメージした三角屋根が特徴の駅舎は、アメリカでよく見かけるレトロなダイナーにも見えた。外壁には新清水トンネル掘削により出た石英閃緑岩(せきえいせんりょくがん)が使用されている。予想した雪は駅舎付近にほとんど残っておらず、今年は春の訪れが早そうだ。

【使用機材】 fp L , 24mm F1.4 DG DN | Art

国道291号と湯檜曽川を跨ぐ連絡通路の外観は、色褪せた赤いトタン屋根が印象に残った。駅の構造を調べずに来た私は、この施設が地下のホームに繋がる階段との連絡通路だと内部に入るまで分からなかった。

【使用機材】 fp L , 14mm F1.4 DG DN | Art

改札を抜けて左側へ歩いて行き連絡通路に入る。コンクリートの壁、銅板のような屋根、外光が差し込む窓、モグラ駅へ下りる前から絵になる場所が沢山あった。

【使用機材】 fp L , 14mm F1.4 DG DN | Art

外観も撮影した地下ホームへの階段と連結する連絡通路。昔通った小学校の体育館を思い出させたレトロ感が漂うこの空間では、カラーモードは迷わずシネマを選択した。中央に立つ衝立は、地下ホーム列車通過時に吹き上がって来る風を分散される為の設備。

【使用機材】 fp L , 14mm F1.4 DG DN | Art

地下70mのホームへ一直線に下る壮大な階段を目の前にした時、目に映る光景を出来るだけ自然にしっかりと撮ろうと思った。上から見ると吸い込まれそうな感じがした階段は、実際に下りてみるとステップの幅が広く、5段ごとに踊り場のような平らなスペースが設けられ、転んで落ちて行く怖さはなかった。

【使用機材】 fp L , 50mm F1.2 DG DN | Art

壁から勢いよく流れ出てくる水を見ていると、膨大な地下水が吹き出てきそうな気がした。新清水トンネル工事は、地下深くの圧力がかかった岩盤がトンネルを掘ることで圧力が開放され、尖った岩がトンネル内に飛び出してくる「山はね」だけでなく、大量に湧き出る地下水にも悩まされた。

【使用機材】 fp L , 50mm F1.2 DG DN | Art

462段の階段を下から見上げる。この階段通路は、新清水トンネル掘削時に出る土や岩の搬出や、資材供給などに使用された工事用の斜坑だった。掘削作業は、トンネル完成後に土合駅のホームへの通路とすることを考慮しながら行われた。地下水が流れている階段横のスペースは、エスカレーター用に確保されているが、今後も設置の予定はない。

【使用機材】 fp L , 14mm F1.4 DG DN | Art

462段の階段を地下70mまで下りた時刻は820分だった。私は、下りて来た階段を急ぐことなく撮影し、837分着の長岡行きの列車が到着する9分前にホームに立った。列車は時刻通りに到着し、土合駅から乗車する人はいなかったが、56人が下車し長い階段を地上へ登って行った。私は、列車が到着する丁度良い時間を見計らって駅に来た訳ではなく、改札口に貼られた時刻表を見て始めて837分着の一番列車が撮れる時間帯に来たことを知った。平日の長岡・越後湯沢方面の下り列車は5本しかなく、次の列車の到着時刻は952分だった。薄暗い地下で列車を一時間以上待つことはしたくないので、時間が少しずれていたら、地下駅で列車を見る事はなかったと思う。

カメラを水平に保ち撮影した。338mの階段通路は比較的緩やかな傾斜に見え、谷川岳を登る前のウォーミングアップにちょうど良いと書かれた記事を見たが、坂を登り慣れていない人が荷を背負って一気に登るのは楽ではないと思う。

【使用機材】 fp L , 50mm F1.2 DG DN | Art

462段の階段を登り、風除けの衝立のある連絡通路からブロックの壁の通路へ進む。下り線ホームから薄暗く湿り気のある長い階段を登って来ると、改札口までの長い連絡通路は自然光が差し込み、地上に出て来た開放感を感じた。

【使用機材】 fp L , 14mm F1.4 DG DN | Art

土合駅の構造を理解し地下から地上の駅舎へ戻ると、ハイカーらしき一人の若者が静かな待合室で持参した弁当を開いていた。地上駅のホームでは、春休み中なのか、中学生ぐらいの男の子が父親と写真を撮り、地下ホームまで下りずに駅舎の外に停めた車へ戻って行った。一組の中年夫婦は、下り線ホームを見下ろした後、階段を下りずに改札に戻って来た。この時駅舎で見た人は列車から降りた人ではなく、列車から降りて階段を登って行った人たちはすでに何処かへ移動していた。

駅舎の外に出てすぐ、連絡通路の屋根に猿のグループを見かけた。地下駅には持って行かなかった500mmを車から取り出し、約33mの距離まで近づき撮影した。

【使用機材】 fp L , 500mm F5.6 DG DN OS | Sports

土合駅では、思いがけず地下駅ホームで列車も見られ、駅舎から出て見かけた猿たちのオマケも付き、短い滞在時間の割に効率よく行動出来た。満足度の高い駅散策の後、駅の南にある谷川岳ドライブインでコーヒーブレイクをとり、谷川岳ロープウェイ周辺をもう一度見て回り、檜曽川沿いの国道291号を下った。

土合駅から国道291号を約4km下って行き、円柱の橋脚が目を引く上越線上り線の第一湯檜曽川橋梁を湯檜曽橋から撮影した。土合駅から湯檜曽駅へ来る上り線の電車は、この橋梁の前に勾配を緩くするための湯檜曽ループ線を走る。土合駅を含め、鉄道ファンには有名な区間だ。

【使用機材】 fp L , 50mm F1.2 DG DN | Art

かつて上越線は、現在の上り線を単線として使用していたが、経済成長期になり需要が増え複線化されることになった。そのころにはトンネル建設の技術が向上し、当時日本一の長さだった全長9,702mの清水トンネル(1922年着工、193191日開通)を広げるのではなく、もっと深い所に長い全長13,490mの新清水トンネル(1963年着工、1967928日開通)が建設された。そして、単線であった既存の清水トンネルを上り線とし、新たに開通した新清水トンネルを下り線とした。2つのトンネルは、長さ、深さ、場所が異なり、土合駅の上りは地上、下りは地下70mという構造になった。

上越線の歴史を調べると、鉄道ファンでなくても土合駅周辺には鉄道関係の興味深い場所が沢山あった。一ノ倉沢周辺のトレッキングコースも魅力的だ。冬季の通行規制の解除後、再訪問したい。

土合駅に行く前、土合砂防堰堤周辺を散策した。

土合駅

撮影風景と機材

カメラ

SIGMA fp L

レンズ

SIGMA 14mm F1.4 DG DN | Art

シャッタースピード

1/30s

絞り値

F4.5

露出モード

M-マニュアル露出

ISO感度

1000

焦点距離

14mm

カラーモード

スタンダード

ホワイトバランス

オート

カメラ

SIGMA fp L

レンズ

SIGMA 24mm F1.4 DG DN | Art

シャッタースピード

1/200s

絞り値

F5.6

露出モード

M-マニュアル露出

ISO感度

100

焦点距離

24mm

カラーモード

スタンダード

ホワイトバランス

晴れ

カメラ

SIGMA fp L

レンズ

SIGMA 14mm F1.4 DG DN | Art

シャッタースピード

1/320s

絞り値

F5.6

露出モード

M-マニュアル露出

ISO感度

100

焦点距離

14mm

カラーモード

風景

ホワイトバランス

晴れ

カメラ

SIGMA fp L

レンズ

SIGMA 14mm F1.4 DG DN | Art

シャッタースピード

1/60s

絞り値

F8.0

露出モード

M-マニュアル露出

ISO感度

100

焦点距離

14mm

カラーモード

スタンダード

ホワイトバランス

晴れ

カメラ

SIGMA fp L

レンズ

SIGMA 14mm F1.4 DG DN | Art

シャッタースピード

1/15s

絞り値

F8.0

露出モード

M-マニュアル露出

ISO感度

100

焦点距離

14mm

カラーモード

シネマ

ホワイトバランス

晴れ

カメラ

SIGMA fp L

レンズ

SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art

シャッタースピード

1.0s

絞り値

F5.6

露出モード

M-マニュアル露出

ISO感度

100

焦点距離

50mm

カラーモード

スタンダード

ホワイトバランス

オート

カメラ

SIGMA fp L

レンズ

SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art

シャッタースピード

1/13s

絞り値

F3.2

露出モード

M-マニュアル露出

ISO感度

320

焦点距離

50mm

カラーモード

スタンダード

ホワイトバランス

オート(色残し)

カメラ

SIGMA fp L

レンズ

SIGMA 14mm F1.4 DG DN | Art

シャッタースピード

1/2s

絞り値

F5.6

露出モード

M-マニュアル露出

ISO感度

100

焦点距離

14mm

カラーモード

スタンダード

ホワイトバランス

オート

カメラ

SIGMA fp L

レンズ

SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art

シャッタースピード

0.8s

絞り値

F5.6

露出モード

M-マニュアル露出

ISO感度

100

焦点距離

50mm

カラーモード

スタンダード

ホワイトバランス

オート

カメラ

SIGMA fp L

レンズ

SIGMA 14mm F1.4 DG DN | Art

シャッタースピード

1/125s

絞り値

F2.0

露出モード

M-マニュアル露出

ISO感度

200

焦点距離

14mm

カラーモード

スタンダード

ホワイトバランス

オート

カメラ

SIGMA fp L

レンズ

SIGMA 500mm F5.6 DG DN OS | Sports

シャッタースピード

1/1000s

絞り値

F8.0

露出モード

M-マニュアル露出

ISO感度

200

焦点距離

500mm

カラーモード

スタンダード

ホワイトバランス

晴れ

カメラ

SIGMA fp L

レンズ

SIGMA 50mm F1.2 DG DN | Art

シャッタースピード

1/500s

絞り値

F5.6

露出モード

M-マニュアル露出

ISO感度

100

焦点距離

50mm

カラーモード

スタンダード

ホワイトバランス

晴れ

押本 龍一

フォトグラファー

東京品川生まれ。1982年留学予定で渡米。1984年ニューヨークへ渡り広告写真スタジオで働き始める。1991年フォトグラファーとして独立。1995年ニューヨークからロサンゼルスへ移動。2018年より日本を拠点にし現在に至る。

oshimoto.net

  • SIGMA
  • コンテンツ
  • 日本一のモグラ駅・土合駅(どあいえき) / Doai Station:Japan's No.1 Mole Station