私の日課の散歩コース / My daily walking course

押本龍一「私の出会う光景」｜第341回

押本龍一「私の出会う光景」

April 03, 2024

スカイブルーの空、コバルトブルーの海、白い雪を被った富士山。これ以上望めない快晴の朝、神奈川県三浦郡葉山町を流れる森戸川河口に造られた導流堤の上に立ち、相模湾に向かいカメラを構えた。写真には引き潮で大きく姿を現した岩礁が自然な形で写り、赤い名島の鳥居と江ノ島が50mmの画角の左右にしっかりと収まってくれた。

（注）PC版では左右がクロップ表示されるので、ダウンロードボタンをクリックして見て欲しい。

【使用機材】 fp L , 50mm F1.2 DG DN | Art

新レンズのSIGMA 50mm F1.2 DG DN | Artは、開放値F1.2の明るさだから、大きくてどっしりと重いだろうと思っていたが、手にすると予想よりはるかに軽量だった。50mmという焦点距離は、人間の視野に近い画角を持ち、レンズの基本と言われている。私は、様々なシーンに応用が効くこのレンズとしっかり向き合いたくなった。それには、普段見慣れている環境で撮るのが一番だと考え、3月下旬の朝、日課にしている散歩コースを歩き撮影した。

森戸橋から森戸海岸へ出ると、迷路のように設置された冬の風物詩である砂防柵が待ち構えている。森戸川沿いの木々がつくる影の部分にフォーカスし、背景のボート小屋の看板が微かに読み取れるよう、F値を開放から4段ほど絞った。

【使用機材】 fp L , 50mm F1.2 DG DN | Art

山頂付近まで直線距離で約77km先に位置する富士山が白い帆の間に見えた。1912年、慶應義塾の水泳部が伴走用のヨットを森戸沖で帆走させたことから、近代日本ヨット発祥の地と言われる葉山町。この日も幾つかの大学のヨット部が海へ出て行った。

【使用機材】 fp L , 50mm F1.2 DG DN | Art

剥げかかってはいたが、ゴールドの文字は遠くから見ても目立っていた。森戸川河口にかかる「みそぎ橋」の橋名板を少し上から見下ろすよう撮った。

【使用機材】 fp L , 50mm F1.2 DG DN | Art

森戸海岸はいつものように多くのトンビが空を旋回していた。引き潮時、森戸川に流れ込む海水が減って現れた川底に下り、森戸神社から海辺に通じる「みそぎ橋」を撮影。

【使用機材】 fp L , 50mm F1.2 DG DN | Art

森戸海岸からは、海岸線の車道を真名瀬海岸まで南下し、真名瀬コースから、はやま三ヶ岡山緑地（はやまさんがおかやまりょくち）に入った。この緑地は、野生動植物の保護や都市気候の改善を目的とした都市林と呼ばれる都市公園になり、3つのハイキングコースが設定されている。私は相模湾を背にし、傾斜が一番きつい真名瀬コースを登り、西の尾根コースを経て標高148mの山頂である三ヶ岡山（大峰山）まで登り、あじさいコースで下山することを日課としている。時間に余裕がある日は、あじさいコースから山頂まで登り、東の尾根コースを経て、つつじコースで下山し、森戸海岸の南に位置する一色海岸へ出ることもある。

真名瀬バス停の裏にある小さなテラス。画面を整理し、古い壁前の古い椅子にフォーカスしたが、後方の海と富士山があってこその風景だった。

【使用機材】 fp L , 50mm F1.2 DG DN | Art

風に揺れる白い紙垂にフォーカスした。はやま三ヶ岡山緑地の真名瀬コース入り口付近に鎮座する熊野神社は、昔から地元の火防の神様として祀られている。このコースを登る際、必ず狭い境内を通ることになるので、参拝も日課となっている。

【使用機材】 fp L , 50mm F1.2 DG DN | Art

西の尾根コースが始まる西峰疎林広場までの階段は444段。その半分を登った辺りで見かけた椿の花は、木漏れ日に照らされ、落花になっても美しく見えた。

【使用機材】 fp L , 50mm F1.2 DG DN | Art

「ここからの展望」と書かれた看板にフォーカスした。444段の階段を登り西の尾根を東へ進み、さらに階段を登り切ると「関東の富士見百景」に選定されている展望デッキに出る。トレイルランニングで走り抜ける人以外、このデッキに出ないで先を急ぐ人はいないと思う。

【使用機材】 fp L , 50mm F1.2 DG DN | Art

頂上に至る直前のトレイルは緩やかな上りで歩きやすい。三ヶ岡山緑地でよく見かけるヤツデにフォーカスし、木漏れ日が美しいトレイルを大きくぼかした。

【使用機材】 fp L , 50mm F1.2 DG DN | Art

木漏れ日が美しいトレイル脇で見かけた芽吹いたシダ。マクロレンズのように寄って撮影してみた。

【使用機材】 fp L , 50mm F1.2 DG DN | Art

日課の散歩コースで写真を撮った翌日の夕方、犬の散歩で海岸に出た際、近所に住む写真好きな女性から、「明日の朝4時45分頃、パール富士見られますよ！」と聞かされた。鳥を撮るのが好きな女性は、最近、富士山を撮って写真コンテストに入選したと喜んでいた。パール富士とは、満月が富士山の山頂にかかり沈む光景を言う。一度もその光景を撮ったことのない私は、翌朝4時過ぎに海岸へ出てみたが、富士山は見えず、満月は雲がかかりぼやけていた。そして、4時45分までに満月は雲の中に完全に消え、光も消えた。

月が雲の中に完全に消える数分前、「月の道」が海面に長く伸び、釣り師が海岸に現れ仕掛けの準備を始めた。ヨット発祥の海は釣り場としても人気があり、暗いうちから釣り師の姿を見かける。

【使用機材】 fp L , 50mm F1.2 DG DN | Art

今回は、海岸と低山で、新レンズに向かい合いしっかりと撮影した。画質は予想以上で、F1.2という明るさにしてはコンパクトで非常に使いやすく、明るいレンズは大きくて重たいと思っていた私の固定観念が崩れた。撮れる絵は面白いけど、解像度は今一つだと思っていた魚眼レンズのSIGMA 15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE | Artに続き、私の常識を覆してくれたレンズだった。50mmという焦点距離はレンズの基本と言われ、このレンズを中心に組み合わせるレンズ選びも、楽しみのひとつになった。

みそぎ橋

使用機材

レンズ交換式カメラ

fp L

スチルレンズ

50mm F1.2 DG DN | Art

押本龍一

フォトグラファー

東京品川生まれ。1982年留学予定で渡米。1984年ニューヨークへ渡り広告写真スタジオで働き始める。1991年フォトグラファーとして独立。1995年ニューヨークからロサンゼルスへ移動。2018年より日本を拠点にし現在に至る。

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