カーネル・アレンズワース州立歴史公園 / Colonel Allensworth State Historic Park
押本龍一「私の出会う光景」|第333回
押本龍一「私の出会う光景」
November 29, 2023
カリフォルニア州のセントラル・バレー南部を占めるサンホアキン・バレー(San Joaquin Valley)の平坦な土地に、修復・再建された20世紀初頭の歴史的な建造物が点在している。アフリカ系アメリカ人がアメリカン・ドリームを実現し、自由に生きることを目指したコミュニティがここに存在した。1974年に「カリフォルニア州公園レクリエーション局」により800エーカー(3.24平方km)の土地が購入され、現在は州立歴史公園に指定されている。
【使用機材】 fp L , 35mm F2 DG DN | Contemporary
サンホアキン・バレーは、南北は北のサクラメント・サン・ホアキン川デルタから南のテハチャピ山地まで、東西は東のシエラネバダ山脈から西の幾つかのカリフォルニア海岸山脈までの間に広がる大平原だ。9月、ロサンゼルスに滞在していた私は、今まで通り過ぎてしまいがちだったサンホアキン・バレーを地図で拡大して目に止まったのが、「カーネル・アレンズワース州立歴史公園」だった。公園の名前の由来になった人物はとても興味深く、又、ロサンゼルスのダウンタウンから北へ250kmと日帰りのドライブには丁度いい距離なので早速現地へ向かった。
ロサンゼルスから州間高速道路5号線(通称I-5)を北上し、冬場は凍結することもあるテハチャピ山地の南東の端、標高1,275 m のテジョン峠(Tejon Pass)を越えてサンホアキン・バレーに下り、I-5からセントラルバレーのほぼ全長に伸びる州道99号線に乗り換え日の出を迎えた。
州道99号線から出て、肥料の匂いがする農場地帯のローカルな道の広い路肩に車を停め、立ち並ぶ電柱越しに東の山から昇る太陽にレンズを向けた。
州道99号線を北上してカリフォルニア州で9番目に大きな都市圏のベーカーズフィールドを越え、さらに45kmほど北へ走った辺りでグーグルマップに従い農場地帯を走るポンド・ロードに入り西へ向かった。乾燥している土地に入ってしばらく経ち、気がつくとペットボトルの水が空になっていた。
ポンド・ロード沿いで見かけた朝陽を浴びたヒマワリ。農産物を運ぶ大きなトラックが走り去る際に起こる風でヒマワリが揺れ土埃が舞い上がった。
【使用機材】 fp L , 35mm F2 DG DN | Contemporary
看板にスペイン語も書かれているポンド・ロード沿いの店に朝陽が差し込む。写真を撮る私の近くでメキシコ人労働者が農場へ行く車の迎えを待ち、彼らの話すスペイン語が耳に残った。
【使用機材】 fp L , 35mm F2 DG DN | Contemporary
「カーネル・アレンズワース州立歴史公園」は、州道43号線と平行して敷かれた線路沿いの平原に位置していた。この小さなコミュニティは、1842年にケンタッキー州のルイビルで奴隷として生まれ、南北戦争中に奴隷状態から逃げ出し軍隊に入り、1906年に退役するまでにアフリカ系アメリカ人としては2人目の司令官となり、初めての中佐となったアメリカ陸軍退役軍人アレン・アレンズワース中佐(Lt. Colonel Allen Allensworth)と、他の4人の入植者により、アフリカ系アメリカ人が差別を受けない環境で暮らしたいという願いを持って1908 年に設立された。
1915年に建てられたこの小さな家は台所と居間の二部屋があり、主にこの町に移動して来た人が一時的に住むために使われた。この家以外、この町の住居は立派な建物で近代的だ。
【使用機材】 fp L , 35mm F2 DG DN | Contemporary
1911年に建てられた窓からの優しい光に満たされた雑貨屋経営者の家。窓ガラスにレンズをくっつけて映り込みを消し、ダイニングテーブルに置かれたランプにフォーカスした。
【使用機材】 fp L , 35mm F2 DG DN | Contemporary
1911年に建てられた婦人向けドラッグストアには、女性のパークレンジャーが通りがかってくれたおかげで店内に入れた。今の建物とあまり変わらないのは、アレンズワースが設立される少し前から建築資材と技術が飛躍的に向上したためだとパークレンジャーが教えてくれた。
【使用機材】 fp L , 17mm F4 DG DN | Contemporary
当初は一部屋の学校として使用されていた図書館のポーチから西の方角を見る。
ここに座り西の地平線に沈む太陽を眺めた入植者もいただろう。
【使用機材】 fp L , 17mm F4 DG DN | Contemporary
1910年に入植し、馬を保有して旅人を輸送するビジネスを手掛けた家族が建てた自宅と馬小屋。
【使用機材】 fp L , 35mm F2 DG DN | Contemporary
設立当時から井戸により豊富な水が汲み上げられていた地下水面は1912年から低下したが、コミュニティはより深い井戸の掘削や既存のシステムの改善資金を調達出来ず、1914年には深刻な問題になった。同年9月の日曜日、小さな教会に説教に行く途中、アレン・アレンズワースはカリフォルニア州モンロビアの路上でオートバイに轢かれて亡くなってしまう。その後、水不足のコミュニティから入植者が続々と引っ越し、地価は下落し衰退した。
この日は20名ほどのガールスカウトのためのツアーが組まれ、パークレンジャーから「あなたも特別に参加しない?」と聞かれたが、2時間もかかるので丁重にお断りし、マイペースで散策して州立歴史公園を出た。帰りは広大な農場地帯をゆっくりと遠回りして走った。
時間が止まり忘れ去られた様な光景だった。州立歴史公園から西へ7kmほど少し走った辺りの平原で、もう使用されていないかもしれない単線の線路を渡った。
【使用機材】 fp L , 50mm F2 DG DN | Contemporary
路肩で見かけたトマト。意図的に捨てたのか、トラックからこぼれ落ちたのか分からないが、農作物を大量に栽培するサンホアキン・バレーらしい光景だと思った。
【使用機材】 fp L , 50mm F2 DG DN | Contemporary
事故で亡くなった人がいるのだろうか。広大な農場地帯に、水面が緑色の水路が流れ、水路と平行した道路の路肩の乾いた土に白い十字架が突き刺さるように立っていた。
【使用機材】 fp L , 50mm F2 DG DN | Contemporary
干ばつ、作物の収穫量の低下、鉄道の駅の移転等があったが、地下水面の低下が絶望的な障害となった。1960年代にヒ素が地下水から発見され、1973年までにアレンズワースは地図から消えた。
水源を確保出来ていたら生き残れたかもしれないアレンズワースだが、水の確保は今も変わらず大きな問題だ。セントラル・バレーの水の供給量の地下水が占める割合は、4分の1とも3分の1とも言われ、近年の干ばつで山の雪解け水が減り、地下水のくみ上げが増して広範囲に渡り地盤が沈下している。
読み書きを覚えることも禁じられた奴隷生活から逃げ出し、夢を追ったアレン・アレンズワースの人生に興味を持って訪れた州立歴史公園は、カリフォルニア州が直面している水不足を再確認させられた旅となった。
朝陽が差し込む大農場にスプリンクラーが大量の水を巻く様子。
カーネル・アレンズワース州立歴史公園
撮影風景と機材
20世紀初頭に設立された黒人による黒人のための自由なコミュニティの跡を散策した。
カメラ
SIGMA fp L
レンズ
SIGMA 35mm F2 DG DN | Contemporary
シャッタースピード
1/400s
絞り値
F8.0
露出モード
M-マニュアル露出
ISO感度
100
焦点距離
35mm
カラーモード
風景
ホワイトバランス
晴れ
カメラ
SIGMA fp L
レンズ
SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG DN OS | Contemporary
シャッタースピード
1/2500s
絞り値
F11
露出モード
M-マニュアル露出
ISO感度
100
焦点距離
230.3mm
カラーモード
風景
ホワイトバランス
晴れ
カメラ
SIGMA fp L
レンズ
SIGMA 35mm F2 DG DN | Contemporary
シャッタースピード
1/400s
絞り値
F8.0
露出モード
M-マニュアル露出
ISO感度
100
焦点距離
35mm
カラーモード
風景
ホワイトバランス
晴れ
カメラ
SIGMA fp L
レンズ
SIGMA 35mm F2 DG DN | Contemporary
シャッタースピード
1/500s
絞り値
F5.6
露出モード
M-マニュアル露出
ISO感度
100
焦点距離
35mm
カラーモード
スタンダード
ホワイトバランス
晴れ
カメラ
SIGMA fp L
レンズ
SIGMA 35mm F2 DG DN | Contemporary
シャッタースピード
1/320s
絞り値
F8.0
露出モード
M-マニュアル露出
ISO感度
100
焦点距離
35mm
カラーモード
スタンダード
ホワイトバランス
晴れ
カメラ
SIGMA fp L
レンズ
SIGMA 35mm F2 DG DN | Contemporary
シャッタースピード
1/200s
絞り値
F3.2
露出モード
M-マニュアル露出
ISO感度
100
焦点距離
35mm
カラーモード
スタンダード
ホワイトバランス
晴れ
カメラ
SIGMA fp L
レンズ
SIGMA 17mm F4 DG DN | Contemporary
シャッタースピード
1/125s
絞り値
F5.6
露出モード
M-マニュアル露出
ISO感度
800
焦点距離
17mm
カラーモード
スタンダード
ホワイトバランス
オート
カメラ
SIGMA fp L
レンズ
SIGMA 17mm F4 DG DN | Contemporary
シャッタースピード
1/500s
絞り値
F8.0
露出モード
M-マニュアル露出
ISO感度
100
焦点距離
17mm
カラーモード
スタンダード
ホワイトバランス
晴れ
カメラ
SIGMA fp L
レンズ
SIGMA 35mm F2 DG DN | Contemporary
シャッタースピード
1/500s
絞り値
F5.6
露出モード
M-マニュアル露出
ISO感度
1000
焦点距離
11.2mm
カラーモード
スタンダード
ホワイトバランス
晴れ
カメラ
SIGMA fp
レンズ
SIGMA 50mm F2 DG DN | Contemporary
シャッタースピード
1/8000s
絞り値
F2.0
露出モード
M-マニュアル露出
ISO感度
100
焦点距離
50mm
カラーモード
風景
ホワイトバランス
晴れ
カメラ
SIGMA fp L
レンズ
SIGMA 50mm F2 DG DN | Contemporary
シャッタースピード
1/1600s
絞り値
F4.0
露出モード
M-マニュアル露出
ISO感度
100
焦点距離
50mm
カラーモード
スタンダード
ホワイトバランス
晴れ
カメラ
SIGMA fp L
レンズ
SIGMA 50mm F2 DG DN | Contemporary
シャッタースピード
1/1000s
絞り値
F4.5
露出モード
M-マニュアル露出
ISO感度
100
焦点距離
50mm
カラーモード
スタンダード
ホワイトバランス
晴れ
押本 龍一
フォトグラファー
東京品川生まれ。1982年留学予定で渡米。1984年ニューヨークへ渡り広告写真スタジオで働き始める。1991年フォトグラファーとして独立。1995年ニューヨークからロサンゼルスへ移動。2018年より日本を拠点にし現在に至る。