© 岩木 十三 Juzo Iwaki

SIGMA 135mm F1.8 DG HSM | Art インプレッション

去る2017年2月21日、135mm F1.8というスペックを持つ新レンズがシグマから発表された。Artラインの35mmフルサイズ対応の単焦点レンズとしては6本目で(同じ日に発表された14mm F1.8 DG HSMよりも発売が早いのでこちらが先となる)、その中ではもっとも長い焦点距離。そして、これまでの5本はすべて開放F1.4だったが、ここに来て初めてF1.8となった。理由は想像がつくけれど、念のためシグマの担当者に訊いてみると、「開発に入る時、いちおうF1.4でラフ設計をしてみたんですが、あり得ないほど大きくなることが分かりまして」とのこと。あり得ないほど大きい・・・ちょっと見てみたい気もする。

そんな話を聞いていたからかF1.8でもかなり大型なレンズを想像していたのだけど、シグマ本社で実物を見て拍子抜けた。もちろん前玉を覗き込むと思わず吸い込まれそうな大口径ではあるのだが、なんというか、常識的。重さもそれなりにあるが、スペックを考えればぜんぜん納得の範疇。

ここにあるすべての画像は、一番下にあるギャラリーでオリジナルサイズのイメージをご覧いただけます
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このレンズに使われているテクノロジーについては、製品解説のページに詳しく書かれているからここでは繰り返さない。その代わりに上の写真をオリジナルサイズで、画面に顔を近づけてよく見て欲しい。「5,000万画素以上の超高画素デジタル一眼レフカメラに対応する高い解像力」という謳い文句に合わせ、ボディはそのクラスのものをチョイスした。

ご覧の通り、和装の帯結びを後ろから撮ったもの。帯の模様をかたち作っている絹糸の一本一本が見えるが、見てもらいたいのはもちろんそこじゃない。それは模様のない、地の白い部分。この部分の「織り」までがくっきりと、シャープに見えると思う。いや、もしかするとご覧になっている液晶画面の性能によっては、分からないかもしれない。そういうレベルのものだ。この地の織りは、帯結び全体にわたってハッキリ確認できる。絞りは開放で、被写体は画面中央から外れた位置にあるにも関わらず、である。「5,000万画素以上に対応する」とは、つまりこういうことなのだ。

Scene 1:夕暮れの都心

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このレンズを受け取り、まずは夕方の都内から撮影をスタートさせる。陽が落ち始めて少しずつ暗くなる時間帯。もちろん135mmを手持ち+5,000万画素超のボディとくれば、スローシャッターどころか、1/200秒ぐらいでもう手ブレの心配をしなくてはならないが、そこはF1.8という明るさの助けを借りよう。撮ったものを仔細に観察して感じたのは、まずグリーン/パープルのフリンジが出にくいこと。光の反射へもろにレンズを向ければ、多少のフリンジは「当然のこと」として織り込み済みだが、それらが確認できたのはごく僅か。見事に補正されている。

Scene 2:海のある町

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都会の喧噪を離れて海へ。レンズの性格上、今回は殆ど開放で撮っているが、試しにF11まで絞った風景写真の王道セッティングで夕焼け雲を撮ってみる・・・さすがによく写る。雲の感じ、山の稜線、右下のクレーン(鳥がとまっている)・・・このレンズの写りの特徴として「線が細い」という言い方はできると思う。しかし、そこに迷いや危なっかしさのようなものは微塵も無く、くっきり、鮮やかに、自信をもって描き切っている。一方で、F1.8の薄いピント面は、わざわざ手前に被写体を置いたりしなくても、任意の一点を浮き上がらせることができる。絵画にしろ、写真にしろ、それは四角いカタチをした「ただの平面」。だからこそ、ぱっと見た時にまずどこへ視線を誘導するかが表現の出発点となるわけだが、その点、このレンズは曖昧になりがちなものを際立たせてくれる。つまり撮影者の意思を明確にしてくれる。

Scene 3:男と女の肖像

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このレンズでポートレートを撮りたいと考えている人も多いと思う。まずよく使われる80〜90mmあたりと較べて「引き」が余計に必要になるのは致し方無いが、その代わり、背景の整理はつけやすくなるという利点がある。それに、このレンズの最短撮影距離は87.5cm。引きが無いなら逆に寄ってしまえばいいのだ。このレンズでまず撮りたかったのがポートレート。しかも表面的な美しさを超越して、もっとハードボイルドに、重ねた年輪や、滲み出る生きざまのようなものを写し止めたかった。モデルはブルースギタリスト。生きざまが写ったかどうかはさておき、ギターの弦が細いワイヤーを巻いて作られていることや、まつ毛が根元から先に向かって細くなって行くさま、さらに瞳に何か映っているのがご覧いただけると思う。

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一転して女性を。横からのカットでは、まぶたの中央付近のまつ毛にピントを合わせると、手前にあるまつ毛はすでにフォーカスから外れている。特にこの距離での薄いピント面がよくお分かりいただけると思う。こうなるともう、AF、あるいはファインダーを覗きながらのマニュアルフォーカスは困難で、背面液晶のライブビューで拡大しながらピントを合わせるしかない。もちろん、その間微動だにしないモデルの能力も必要だ。モデルさんには申し訳なかったが、肌の肌理(きめ)がどう写るかも試したかったので(残酷な話だが、それこそがレンズの解像力というものだから)、敢えてノーメイクで撮影に臨んでもらった。近接撮影での前後ボケは極めて滑らかで、とろけている。またピントが合った部分の髪の毛をよく見ると、毛髪一本一本の、「どの毛はどの毛より上にあるが、どの毛よりは下にある」という「毛のレイヤー構造」までがハッキリ分かる。この解像力、描写力は本当に凄い。

Scene 4:敢えて135mmスナップ

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135mm。古くからある焦点距離だ。ライカがレンズを交換できるようになったのは1931年だが、その時の交換レンズのラインナップにすでにあった。いわば24x36mm(つまりフルサイズ)用交換レンズの一期生。以来、中望遠の要として使われ続けてきた焦点距離だが、「スナップレンズ」というイメージはあまり無いと思う。もちろんこのレンズも、その性能を考えたらしっかりと三脚に据えて撮るのがデフォルトのスタイル。そうして初めて真価を発揮するレンズである。しかしそこを敢えて手持ちのスナップで使ってみる。これが新鮮。普段とは違う部分の脳を使っている感じがする。決して小型軽量のレンズではないし、F1.8とはいえ、これは135mmの望遠レンズ。先述したようにある程度のシャッタースピードが確保できることが条件となる。でも実際に撮り始めてしまえば、困ったことなどもちろん起こらない。むしろ快適さすら感じながら、普通に撮れる。

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挑戦するに足る、超高性能レンズ

例えば自動車。誰でも簡単・安全に目的地へ移動するための自動運転が実用化されつつある。かと思えば、より速く走るため、限られた人間だけが運転できるF1マシンが毎年作られる。どちらも新しいテクノロジーを注ぎ込んだ結果としての自動車の姿だが、このレンズを当てはめるなら間違いなく後者だ。と、そこまで言い切ってしまうと語弊があるかもしれない。誰が使っても、もちろんこのレンズの性能は発揮される。しかし、それを「最大限に」引き出そうとしたら、撮影者に求められる要件はおのずと多くなる。カメラやレンズの仕組みを理解しているとか、三脚の正しい使い方を知っているとか、そして何より今まで多くの撮影をしてきて、自分の目指す写真をきちんと認識している、といったような。腕に覚えがある人は是非このレンズに挑戦して欲しい。まだ自信がない人にも「相手の胸を借りる」という言葉があるように、格好の練習相手になると思う。いずれにせよ、これが相当手強いレンズだということはすぐに分かるはず。上手くなりたければ、最高の相手と組むに限るのだ。